2018 Fiscal Year Research-status Report
可罰性評価の再構成-制度担保を指向する二次規範論の構想
Project/Area Number |
17K03429
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
小田 直樹 神戸大学, 法学研究科, 教授 (10194557)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 可罰性 / 法益侵害 / 制度侵害 / 二次規範性 / 背任罪 / 担保権侵害 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,「可罰性評価の再構成」すなわち<「法益侵害」という評価の枠組を「制度侵害」の視角を加えて組み替える作業>を目指している。本年は,具体的な実践例として,特別背任罪(会社960条)の解釈を扱うことに決めて,その前提作業として,背任罪(刑247条)を「委任」制度の侵害から捉え直す見方を提示した。<事務処理者の任務違背による財産的加害の犯罪>を理解するに当たり,議論の現状が,権限濫用説の緩和にせよ,背信説の限定にせよ,論者ごとの(処罰範囲が狭すぎる・広すぎるという)当罰性の感覚に基づく議論に終始している状態を打破するために,そのような「現状」の意味を読み直すと共に,考慮されるべき問題と,それを扱うための指針について,私見(仮説)を示した。 背信説の難点は,「任務違背」の解釈に値せず,債務不履行の処罰化にもなりかねないことにある。代理権濫用を典型例と捉えること自体に争いはないが,権限濫用説が狭すぎるのは,二重抵当のような担保権侵害の当罰性は(二重売買との均衡で)否定し難いからである。(委任~代理権濫用で)受任者Xが本人Aに代わってBと交渉する際にAを侵害する場合,XとAの関係のみでなく,Bとの交渉が第三者Aに波及する(その意味で公共に影響しうる制度の)構造的な特殊性を読み取るべきである。担保権侵害にも類似の構造を読み取れるから,問われるべきは,刑法が「委任」制度のもたらす関係の担保を原点とするにしても,関係の類似性を理由に(一次規範レベルの類推で)その可罰性評価を(担保価値維持の「任務」に)拡げてよいかであり,処罰の可否を考えるのならば,公共の問題として扱うことの要否,(対世効という)物権的効力の侵害といえるか否かを一つの指針として,「任務違背」の可罰性を限界づけるべきことを主張した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
社会学・経済学などで描かれている「制度論」を学んで,社会的な「損害」評価のあり方を具体化する予定であったが,抽象的な議論の大展開を避けて,(計画では平成31年度の取組として予定していた)具体例を示す作業を前倒しで始めることにした。社会学的な「現実」認識を土台に据え,刑罰権(国家作用)を規律する刑法の役割を踏まえた政策学的な検討で導く,刑法解釈(可罰性の限界付け)の方法を描くことが本来の目的だが,最終的には,それをどのように使うのか,具体例(実作)を示せなければ説得力は乏しい。そこで,「方法論」の具体化と「実作」を並行的に進める方針に変更し,現段階における成果を示すことにした。 すなわち,芝原説における背任罪の機能主義的な理解をフォローすることで,犯罪社会学の知見と刑事政策学の関係や,立法過程の捉え方が解釈に投影される関係を確認した。その上で,自ら刑法247条の制定過程における「政策」判断の読み取り方も検討し,「社会」の制度的な把握とその変化に対応すべき,刑法解釈におけるスタンスの取り方(一次規範レベルの類推の可否という視点)を示した。財物罪・領得罪から外れた事例を捕捉すべき,背任罪だからこそ意味をもつ分析でありうるが,「一次規範」から「制度」を読み取る作業を前提とすべきこと自体は広く応用可能な手法だと考えている。また,「委任」という(契約)制度に読み取るべき意味を抽出し,政策的な考慮の指針(公共性~公序への配慮)の提示に踏み込んでいる。刑罰制度の公的性質を否定できない以上,そこに限界が見出されることは当然だと思われる。 当初の計画とは進め方が異なるが,会社法学を参照しつつ,特別背任罪について同様な作業を行いつつ,「並行的」に,いわゆる制度経済学の知見を踏まえ,「制度論」の取り込み方を検討している。
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Strategy for Future Research Activity |
会社と取締役等の関係は「委任」とされており(会社330条),取締役には「忠実義務」の特則もある(会社355条)。一方では,前者から,権限濫用としての理解に徹することはできないかが問われる。他方では,後者は戦後の商法改正でアメリカ法の影響を受けて導入されたものであり,その独自性を強調して,取締役に<信認関係>に伴う高度の義務を認めて,「ホワイトカラー犯罪」としての理解を唱える見解もあった。そこで,芝原説の展開とも対比しつつ,社会学的な知見が特別背任罪の解釈に与える影響をフォローし,(ドイツ的な理解や)アメリカ的な理解をも参照しつつ,「忠実義務」をめぐる判例・学説の状況から会社の「制度」としての理解(そこでの「委任」関係の特殊性)を抽出してみたい。それを土台として特別背任罪の「特別」性をどこに見出すべきかを検討することになる。 このような「制度」を意識した解釈の過程で,(取締役以外にも及んでいる)特別背任罪の射程を理由づけうる見方を探る。包括的な裁量権をもつ経営者を想定することが「典型例」だとしても,その周辺に位置する支配人・使用人にも及ぶ規律を「一次規範レベルの類推」として合理化しうるか,反面では,それらの主体における「委任」を限定的に解釈する必要があるかを検討すべきことになる。可罰性を画する「指針」との関わりでは,刑法解釈における「制度侵害」の読み込み方を具体的に表現すること,刑事制裁を用いるべき「公共の問題」を描き出すことが目標となる。加えて,会社(組織)と法規制は,社会学や経済学(制度学派)が議論の対象として扱ってきた問題なので,それらの知見と自ら示す具体的な「表現」を結ぶ理路を探ることで,刑法解釈に(一次規範レベルの法学の知見や)周辺諸科学の知見を取り込む方法として総括することを目指したい。
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Research Products
(1 results)