2021 Fiscal Year Research-status Report
保安処分の対象者別効果測定と総合的再犯予防策の具体化に関する研究
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17K03433
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
井上 宜裕 九州大学, 法学研究院, 教授 (70365005)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 保安処分 / 保安監置 / 再犯予防 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、各保安処分の対象者別効果を測定し、総合的再犯予防策の具体化を指向するものである。2021年度は、社会的反作用の対象者別効果の検討に着手する予定であったが、2020年度と同様に、計画していた海外調査が新型コロナウィルス感染拡大の影響で中止となり、資料収集にも困難が生じる事態となった。 そのため、2021年度は、オンラインツールを駆使し、海外とつないで、情報提供を受けようと試みたが、先方もコロナ関連の対応に追われていることが多く、十分な成果が得られなかった。結局のところ、2021年度も、収集済みの資料の分析を中心に行うこととなった。2020年度に引き続き、2018年から2022年までの計画及び司法改革に関する2019年3月23日の法律第2019-222号、及び、成立した少年刑事司法法典の内容を精査した。 前者の主要なポイントは、保護観察制度改革である。そこで、この制度改革に伴う、刑事強制の廃止がいかなる帰結を伴うのかについて検討を加えた。当局は、「保護観察制度の充実による刑事強制の発展的解消」としているが、必ずしもそうはなっていないことが判明した。刑事強制の運用状況に鑑みれば、結局、機能不全に陥った刑事強制が消えるべくして消えていったと考えるべきであろう。 後者については、少年刑事司法法典で導入された、手続二分の原則がどこまで機能するかが今後の焦点となる。そこで、少年処遇に関わる各担い手の見解を参照しながら、手続二分制度の実効性について検証した。この点については、今後の運用状況を注意深く見守る必要があるが、物的・人的コストの面等、実務担当者から多くの問題点が指摘されているのが判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウィルス感染拡大の影響を受けて、海外調査ができなかったのが大きな理由である。それに伴い、海外文献、資料の収集に支障が出た点も進捗状況が芳しくない理由に挙げられる。 本研究は、各保安処分の対象者別効果を測定し、総合的再犯予防策の具体化を図ろうとするものであるが、2019年度までに、各保安処分の対象者別効果測定の前提となる制度概要及び運用状況を精査し、比較検討の基本的視座を獲得することができた。 2020年度及び2021年度は、予定していた海外調査が実施できなかったことから、さらなる資料の拡充が十分にできず、当初の研究計画からは後れを取る事態に陥った。2021年度においても、特に、刑罰及び保安処分をめぐるドイツの動向に関しては、本格的に吟味するに至らなかった。 以上の点に鑑み、2021年度においては、最低限の研究を進めることはできたが、十分とはいえない状況であったといわざるをえない。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は、まさしく本研究の最終年度であり、2020年度及び2021年度に十分対応できなかった点を拡充しつつ、成果を上げたいと考えている。即ち、これまでの研究成果を踏まえた上で、各保安処分の法的性質及び他の措置との関係の明確化を図りつつ、各保安処分の対象者類型の分析、及び、対象者類型ごとの効果測定を具体的に展開する。 まず、フランスにおける、刑罰及び少年刑事司法をめぐる動向も射程に取り込みながら、刑罰と保安処分の関係、多様化した社会的反作用をめぐる理論的展開及びその運用状況等について精査する。 その上で、各保安処分の対象者類型の分析、及び、対象者類型ごとの効果測定を行い、具体的に、少年、高齢者、精神障害者、身体障害者等のカテゴリー別の特性について、詳細に検討を加える。 上記検討を経て、最終的に、各保安処分の刑事司法全体における位置づけを明確にした上で、再犯予防の実質化、そして、総合的再犯予防策の構築を目指す。 なお、本研究の推進方策として、研究会報告及び学会報告を最大限活用する。研究の進捗状況及び暫定的結論を各研究会で報告、質疑応答を通じて各会員から示唆をえる予定である。これにより、多方面からの意見を吸収し、本研究を効率的に進めていきたいと考えている。 ただ、2021年度に引き続き、2022年度も新型コロナウィルスの影響が懸念される。2022年度中の海外調査の可否、文献・情報の入手の可否については、依然、予断を許さない状況にある。何とかこの難局を乗り切るべく、オンラインによる情報収集等、善後策を講じながら、柔軟に対応したい。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染拡大の影響を受けて、海外調査ができなかったのが大きな理由である。それに伴い、海外文献、資料の収集に支障が出た点も次年度使用が生じた理由に挙げられる。 使用計画について、2022年度中に海外渡航し、刑罰及び保安処分をめぐるドイツの動向を中心に調査を行う。その上で、補足的な資料収集を行いつつ、社会的反作用の対象者別効果の検討を進める。 以上の計画に基づき、予算残額を消化する予定である。
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