2017 Fiscal Year Research-status Report
会社法における労働債権者保護とその限界―株主・取締役の賃金責任に係る比較法的考察
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17K03444
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
南 健悟 日本大学, 法学部, 准教授 (70556844)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 株主有限責任と債権者保護 / 賃金責任 / 労働者保護 / 取締役の賃金責任 / 株主の賃金責任 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究が明らかにすることは、第一に、会社法学が考察を進めてきた株主有限責任と債権者保護の関係においては、ほとんど扱われてこなかった労働債権者に焦点を当て、会社法における労働債権者保護の必要性やその正当化根拠を、第二に、株主や取締役に対して賃金責任を課すことによって生じる問題を回避するための法規範を定立することである。 平成29年度においては、まずは本研究の準備作業として、日本法における株主の賃金に対する責任が争われた事例を含めた労働者からの株主に対する責任追及、すなわち法人格否認の法理が適用された事例の包括的なサーベイを行った。同サーベイにおいては、労働者が株主に対して未払賃金等を請求する場合については、従来、労働事件以外の事例において法人格否認の法理が適用された事案とほぼ同様の枠組み、すなわち、債権者詐害や会社財産の株主による搾取行為等がなされているような場合に、当該法理の適用が肯定されているということを明らかにした。 次に、アメリカ会社法における株主の賃金責任について、若干の検討を行った。この点、アメリカ会社法においては、従来から株主の労働者に対する賃金責任については否定的に解されてきたことが明らかになっている。現在では、ニューヨーク州会社法630条のみが明文規定を有しているが、1980年代におけるウィスコンシン州会社法における株主の賃金責任に関する論文等では同州法の削除が提案されていた。しかしながら、他方で、株主有限責任との関係で、非任意債権者的な立場を有する労働債権者に対する保護という観点から必ずしも否定的に捉えられていない立場もあり、学説上対立が見られるところでもある。加えて、近時、取締役の責任(ただし、行政による取締役へのサンクション等)を通じて労働債権者を保護すべきとの見解も見られており、今年度はこれらの学説の対立をまとめた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度においては、研究実績の概要でも示したように、①日本の労働事件における法人格否認の法理の適用についてと、②アメリカにおける株主の賃金責任についてを中心に研究を行った。当初の研究実施計画によれば、アメリカ会社法における株主・取締役の賃金責任に関する立法、裁判例及び学説上の検討を行う予定であったことに鑑みれば、主として株主の賃金責任を中心に検討したことから、取締役の賃金責任に関する点については、やや不充分な面も否めない。しかしながら、既に、取締役の賃金責任については、研究実績の概要でも指摘したとおり、近時は、取締役の賃金責任については、必ずしも民事上の責任によるのではなく、行政によるサンクション等を通じた枠組みを志向する見解についてもサーベイしており、取締役の責任についても一定程度の研究を進めているものと考えられる。また、取締役の賃金責任については、平成30年度以降に研究予定のカナダ法を中心として考察を進める予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度については、カナダ会社法における取締役の賃金責任に係る規定の立法経緯、裁判例及び学説上の議論について考察を行い、その責任の範囲及びその必要性・正当化根拠を明らかにする予定である。カナダでは連邦会社法及び(一部を除く)各州会社法において、取締役の賃金責任(責任範囲については若干州によって異なる)を明文で認めており、取締役の法定責任として位置づけられている。更に、2000年前後には同規定の削除を含めた改正議論がなされていたが、結果的に同条文が維持されたことに鑑みて、本研究においては、その改正議論の状況を確認しつつ、カナダ会社法における取締役の賃金責任について包括的なサーベイを行う予定である。 その後、平成31年度以降については、アメリカ法及びカナダ法における議論を総括し、両国の議論の一般化を図り、両国の株主及び取締役の賃金責任の在り方の異同を踏まえて、もってその責任範囲や正当化根拠、そして、限界について明らかにする予定である。そして、最終年度においては、それらのサーベイを踏まえて日本法への示唆を得たいと考えている。
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Research Products
(4 results)