2018 Fiscal Year Research-status Report
会社法における労働債権者保護とその限界―株主・取締役の賃金責任に係る比較法的考察
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17K03444
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
南 健悟 日本大学, 法学部, 准教授 (70556844)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 取締役の賃金責任 / 株主の賃金責任 / 労働債権者保護 / 株主有限責任と債権者保護 / 労働法コンプライアンス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、会社法における債権者保護という文脈の中で、従来扱われてこなかった労働債権者に着目して、その保護の在り方を明らかにするものである。従前、会社法学においては、株主有限責任を背景とした債権者保護について、例えば、一部の学説からは、債権者を任意債権者と非任意債権者とに分け、特に後者の典型例である不法行為債権者を保護するための理論構築などが検討されてきた。しかし、労働契約債権者である労働者については扱われてこなかった(その背景として、労働法による保護で十分だという考えもあり得る)。そこで、本研究は株主有限責任を背景とした労働債権者保護を会社法の立場から検討を加えるものである。 平成30年度は、平成29年度に引き続き、労働債権(賃金債権)に対する株主の責任について、アメリカ法における株主の賃金責任に関する立法史を辿り、その理論的背景を明らかにした。19世紀までのアメリカ法においては株主有限責任自体が例外的な扱いが続けられ、原則として、株主も(賃金債権に限らず)責任を負いうるとされ、その後、有限責任が一般化していくと、その例外として賃金責任が位置づけられていったことが判明した。しかし他方で、株主の賃金責任は、20世紀中盤になると、株主に対するブービートラップとしても考えられるようになり、多くの州で賃金責任規定が廃止され、その不合理性が語られるようになったことを明らかにした。 さらに、取締役の賃金責任を有するカナダ法においても、2000年前後にその合理性が問われ、廃止の検討もなされたが、一方で、賃金支払いの優先化を図ることができ、労働者をより保護できるという点で、必ずしもすべてが不合理であるとはいえず、また取締役が責任を回避するために労働法を遵守するインセンティブを付与しているのではないかということも検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成30年度においては、平成29年度に引き続き、株主の賃金責任について中心に扱ったことから、昨年度と同様、取締役の賃金責任に対する検討がやや不十分となったことは否めない。しかしながら、第一に、取締役の賃金責任について規定しているカナダ法における立法史をサーベイし、その規定の変遷について明らかにしたこと、第二に、労働法コンプライアンスという観点から、取締役が労働法令を遵守するようなインセンティブを付与している可能性を明らかにしたという点に鑑みれば、おおむね順調に進展しているといえる。 また、今年度は、関西企業法研究会(開催校:神戸学院大学)にて、取締役及び株主の賃金責任に関する研究報告を行い、ある程度、研究の方向性を決めつつある。株主の賃金責任の合理性や取締役の賃金責任の合理性を明らかにしつつ、その限界もアメリカ法における検討を中心に行って明らかにしていることに照らし合わせれば、研究の進展状況としては遅れているわけではないと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成31年度においては、平成29年度及び平成30年度に行ったアメリカ法及びカナダ法の立法史を踏まえた上で、実際にどのような事案において争われているのかなど、判例を中心に検討を進める予定である。立法史では、その規定が生まれた背景(経済的背景も含む)とその規定に対する学説上の評価を研究してきた。しかし、これらの研究では、実際に、どのような紛争で問題とされているのかまでは明らかにできなかったことから、平成31年度においては、判例研究を中心に検討を進める予定である。 平成31年度以降、最終年度にかけて、立法史、学説、判例研究をまとめ、日本法への示唆を得る予定である。日本法に対する示唆において、問題となる点の一つとして、株主や取締役の賃金責任の合理性を明らかにし、一定程度、賃金の支払いを株主や取締役に求めることができるとしても、それを現行法上、どのような構成によって認めるのかということが問題となる。そこで、平成31年度以降においては、適用法条やどのような理論によって、それを肯定し、制限するのかということについて明らかにする予定である。
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Research Products
(3 results)