2019 Fiscal Year Research-status Report
会社法における労働債権者保護とその限界―株主・取締役の賃金責任に係る比較法的考察
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17K03444
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
南 健悟 日本大学, 法学部, 准教授 (70556844)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 取締役の賃金責任 / 株主の賃金責任 / 株主有限責任と債権者保護 |
Outline of Annual Research Achievements |
アメリカ及びカナダにおける株主及び取締役の労働債権者に対する賃金責任に対する評価について考察をした。肯定的に捉える見解からは、①労働債権者の特殊性(自衛手段を持たない債権者、企業特殊的人的資本の拠出者、交渉力の格差等)という観点から、他の債権者よりも保護されるべき存在であること、②労働法令遵守に対するインセンティブとして機能し、労働者による経営者監視機能を有していることが挙げられていた。他方で、否定的に捉える見解からは、①間接有限責任によってもたらされる経済的合理性が害される、②取締役のリスク回避的経営、③取締役就任に対する拒否や萎縮(倒産間際の退任の促進)、④労働者保護的経営判断の優先化といった非効率的な経営が行われるリスクが生じることが指摘されていた。 現在では、倒産法や労働法によって、労働債権者保護が図られる中で、会社法においても労働債権者を保護すべきか、という疑問があっても当然である。しかしながら、カナダ法において指摘されるように、労働債権者は、企業の財務状態を知らない債権者であって、それによって経営者による労働搾取を防ぐことに対する対応策として機能し、かつ、コーポレート・ガバナンスの観点から、取締役の賃金責任が、労働者による経営監視機能という役割を担っているということがわかった。 そこで、上記のようなメリットを考慮すれば、株主や取締役の賃金責任は過去の遺物であって、非合理的な責任とまではいうことはできず、株主による投資の阻害や取締役による経営の萎縮を招かないような形で、責任の範囲を限定することが重要であると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度においては、アメリカ法、特にニューヨーク州法における株主の賃金責任の立法経緯及び判例法理の変遷について、さらにカナダ法における取締役の賃金責任の立法経緯及び学説上の議論をサーベイし、それぞれの責任の合理性を考察した。そして、研究実績の概要において言及したように、それぞれの責任に対する判例及び学説の評価を、肯定的な立場と否定的な立場とを比較検討し、必ずしも当該責任が過去の遺物に過ぎず、非合理的な制度であるということまではいえない、ということまでを明らかにすることができたからである。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度においては、比較法的考察を踏まえて、以下のような日本法に対する示唆を検討する必要があろう。 まずは、改めて日本法の文脈においても、取締役や株主に対して労働債権者に対する賃金責任を認めるべきか、ということを、検討しなければならないことになろう。というのも、アメリカやカナダにおいては、そもそも間接有限責任原則が特権として意識されていた歴史的背景や、労働者保護法制が脆弱であったという問題があったことからすれば、同じような歴史的背景を有さない日本においても同様のことがいえるのか、そして、経済的な背景も異にするのであれば、同様の結論を法解釈によって導くことそれ自体の合理性が問われることになることから、このような点について検討を深めなければならない。 次に、適用法条をどのように考えるか、その責任限定の範囲をどのように考えるかということが残されている。特に、アメリカやカナダにおける賃金責任は、明文の規定をもってその責任の範囲を限定しているが、他方で、このような規定を欠く我が国において、どのような形で責任を制限すべきかを考察しなければならないことになろう。例えば、損害賠償責任について過失相殺の法理等によって対応すべきかなどについても考察しなければならないと思われる。
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Research Products
(3 results)