2019 Fiscal Year Annual Research Report
民事訴訟における不利益変更禁止原則の再構成ー296条1項の検討を通じてー
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17K03462
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
八田 卓也 神戸大学, 法学研究科, 教授 (40272413)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 不利益変更禁止原則 / 民事訴訟法 / 上訴 / 控訴 |
Outline of Annual Research Achievements |
最終年度及び研究期間全体を通じた研究の成果として以下の知見を得た: ・民事訴訟法304条の不利益変更禁止原則と別に口頭弁論の限度を当事者が第1審判決の変更を求める限度としているように読める民事訴訟法296条1項の淵源は、ドイツ民事訴訟法ハノーファー草案583条1項にさかのぼること。また、同項に、後の「不服申立の限度で」との限定につながる文言が入る契機となったのは、あくまで「控訴にとって利益となる限り」に口頭弁論の範囲を限定しないと「新たな審理」をする控訴審の元では第一審を無限定にやり直す必要が生じるかのような誤解を招きかねないとの危惧であったこと。即ち、積極的に控訴申立に控訴審の審理範囲を限定する契機を与える意図はそこには存在しなかったこと。 ・以上の点に鑑みれば、まず(ハノーファー草案593条の)不利益変更禁止が先にあり、それに資する限度で控訴審の審理範囲を限定しようというのがもともとの(ハノーファー草案583条1項の)立法趣旨であったとみるべきであると思われること。したがって、(日本の現行民事訴訟法)304条の不利益変更禁止と独立に審理範囲を限定する機能を同296条1項に見出す契機は存在しないこと。 ・請求の予備的併合がなされた訴訟で裁判所が主位的請求を棄却し予備的請求を認容したのに対し被告が控訴を提起し(原告が控訴も附帯控訴も提起しなかった)場合、民事訴訟法304条が「第1審判決の取消し及び変更は、不服申立ての限度においてのみ、これをすることができる。」とすることの帰結として、主位的請求棄却に対し被告の不服申立てがない以上、予備的請求についての判決のみが変更対象となると理解するべきであること。 ・民事訴訟法324条に基づく移送決定を最高裁判所が取り消すことができるとするのは、実質的には妥当だと考えられるが、その理論的基礎付けには困難が伴い、立法的解決が相当と考えられること。
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