2017 Fiscal Year Research-status Report
民事裁判手続における超個人的利益の保護に関する比較法的研究
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17K03470
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
高田 昌宏 早稲田大学, 法学学術院, 教授 (50171450)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 超個人的利益 / 職権探知主義 / 職権調査事項 / 団体訴訟制度 / 裁判官の私知 / 集団訴訟 |
Outline of Annual Research Achievements |
私人の権利保護や私的領域の紛争解決を主目的とする民事手続法において、公益や集団的利益などの超個人的利益の保護がどのような意味を有し、また、それを踏まえて民事手続法の規律がどうあるべきかを解明することを研究目標としていることから、本年度は、まず、通常の民事訴訟手続において公益的要素と密接に結びついている裁判官の職権による事実解明活動に着目して、職権調査や職権探知の基礎法理を、日本および比較対象のドイツの法律文献資料に基づいて考察を進めた。その考察の過程で、裁判官活動における実体法上の公益的契機に基づく職権的要素と手続法自体の公的契機に基づく職権的要素の存在について一定の認識を得ることができた。また、裁判官による手続資料収集との関係で、裁判官が個人的に獲得した知見の利用可能性について、日独の文献等を素材に考察を行い、裁判官自らが有する私的な知見の利用の問題性の確認とその利用限界の解明を試みた。その成果の一部は、「『裁判官の私知』の利用禁止について―フォルカー・リップ(Volker Lipp)の研究を手がかりとして」(高橋宏志先生古稀祝賀論文集・民事訴訟法の理論〔2018〕に収録)と題する論文として公表した。この研究によって、公益的契機に基づく裁判官自身による裁判資料や情報の収集も含め、裁判官が独自に得た知見・情報が、民事訴訟においてどの限度で許されてよいかの限界を明らかにするための一視点が得られた。また、超個人的利益の保護を主目的とする団体訴訟制度については、ドイツ語による論説(“Einfuehrung der Verbandsklage und traditionelles Zivilprozessrecht in Japan”, in: Tradition und Innovation im Recht)を公表して、同制度の理論的課題を提示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は、所属研究機関の変更により研究環境が大きく変わったこともあり、研究への着手が若干遅れた。研究の端緒として、裁判所の職権による事案解明(職権調査および職権探知)に関するドイツの文献資料の収集に努めるなか、新たな個別問題領域を見つけつつ、職権調査や職権探知に関する日独の基礎理論の究明を進めた。また、ドイツを含む欧州圏において、民事訴訟制度による客観的法の実現(法執行)への志向と従来の民事訴訟制度との関係を問う研究成果も複数現れており、それらの資料の入手に努めたものの、入手資料を、目標としていたところまで十分に精読・理解するにはいたらなかった。また、上記の裁判所の職権による事案解明とともに考察の中心的対象をなす「超個人的利益保護のための集団訴訟制度」について、超個人的利益の内容を考察するための新旧の外国文献資料の精読も、まだ十分とはいえない。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、とくにドイツの関連文献の収集に努めたことにより、研究テーマに関わる新旧の研究文献および関連手続法の詳しい注釈書を入手することができているので、次年度は、引き続き関連文献の収集を継続しつつも、上記入手文献の精読に努め、とくに現在進めている裁判官の職権による情報・資料収集の基礎にある公益的契機の探究と、そこから演繹しうる規律の解明作業を進める予定である。また、これと並行して、団体訴訟制度などの集団訴訟制度における公益や超個人的利益に関する日独の利益概念の比較と、その概念が民事訴訟制度に及ばず影響についても、本年度収集した文献の精読とその内容の整理を進めるつもりである。文献による研究の進捗をふまえて、研究期間中に計画している海外調査に向けた計画と準備も進める予定である。
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Causes of Carryover |
本年度購入を予定していた研究の基本となる注釈書等の発刊が次年度以降になったため。次年度に、同書籍の購入費用にあてる予定である。
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