2021 Fiscal Year Annual Research Report
Civil Liability for Unknown Risks: Decision under Risk/Uncertainty and Civil Liability
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17K03476
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
永下 泰之 上智大学, 法学研究科, 教授 (20543515)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 不法行為法 / 製造物責任法 / 過失責任主義 / 意思決定 / リスク / 不確実性 / 法の経済分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、行為者にとって認識可能性のない「未知のリスク」が当該行為者の意思決定にどのように影響し、その結果として生じた「損害」に対して当該行為者の法的責任はどのようにあるべきかを検討し、もって今日における過失責任主義のあり方を模索するものである。 本年度は、わが国におけるいわゆる素因減責論について、法の経済分析の見地から、分析・考察を行い、一遍の論文にまとめた。その概要は、次のとおりである。 わが国の判例によれば、不法行為による損害の発生・拡大に被害者の素因(心身の脆弱性)が競合した場合、被害者の素因子を斟酌して、損害賠償額を減額することができるものとされている。同論文は、上述の判例法理が、加害者および被害者の行動に対してどのように影響するかを検討するものである。すなわち、素因が競合した場合に、損害賠償額が減額されることが明らかであるならば、素因を有する被害者は、減額という不利益を回避するために、その行動を控えるのが合理的選択であるが、これは被害者の行動の自由の制限である。他方で、上記判例法理が存在しないとすれば、一度生じた損害は、全て加害者が負担することになるのであるため、これは加害者にとっての行動の自由の制約となりうるものである。そこで、同論文では、両者の行動の自由のバランスを確保する責任配分のあり方を、法の経済分析の見地から分析・検討を試みた。同論文は、上記の検討の結果、不法行為に関する加害者および被害者の注意水準、活動水準および活動インセンティブという観点から、素因それ自体の斟酌を許す上記判例法理は望ましいルールということはできず、素因それ自体の斟酌を認めないルールとすべきであると同時に、被害者自身による素因の発見統制義務を媒介とする過失相殺を認めるルールに修正すると、加害者および被害者双方の活動インセンティブが最適化されることが示される。
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