2018 Fiscal Year Research-status Report
定期借地権における2042年問題――法解釈上・立法上の対応を考える
Project/Area Number |
17K03483
|
Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
秋山 靖浩 早稲田大学, 法学学術院(法務研究科・法務教育研究センター), 教授 (10298094)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 定期借地権 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度も、前年度に引き続き、一般定期借地権(借地借家法22条)の存続期間満了時にどのような法的問題が生じるか(本研究が「定期借地権における2042年問題」と名付けたもの)を明確にするために、各種の資料を調査して分析を加えた。 その結果、おおむね以下の点が明らかとなった。 借地権者は、定期借地権の存続期間満了時に原状回復義務を負い、具体的には、土地上の建物を収去し、土地を更地にして土地所有者へ返還しなければならない。しかし、定期借地権付き住宅の売買契約では、存続期間満了時の建物収去・更地返還の負担やトラブルを回避するために、(1)借地権者(定期借地権付き住宅の購入者)が、一定の要件の下で、土地所有者からその土地を買い取ることができる旨の特約や、これとは逆に、(2)借地権設定者(土地所有者)が、借地権者に対し、借地上建物の譲渡を請求することができる旨の特約が定められていることがある。これらの特約は、定期借地権設定契約の当事者に特に不合理な負担を強いるものではなく、有効であると解されてる。 これらの特約に基づく権利が行使されると、土地所有権が借地権者に移転し(上記(1)の場合)、あるいは、借地上建物の所有権が借地権設定者に移転する(上記(2)の場合)ことによって、存続期間満了時に、借地権者が建物収去・更地返還(原状回復)の負担から解放される。さらに、まだ使用可能な状態の建物を収去せずに済むことによって社会経済や環境保護の観点からメリットがあるだけでなく、その建物で営まれてきた居住・事業等を継続できる可能性もある。もっとも、このような結果が実現されるか否かは、これらの特約に基づく権利が実際にどのくらい行使されるかに依拠しており、この点に関する考察がさらに必要となる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は、①一般定期借地権の存続期間満了時にどのような法的問題が生じるか(本研究が「定期借地権における2042年問題」と名付けたもの)を明らかにした上で、②これに対応するドイツ法の議論を抽出し、その議論からどのような示唆が得られるかを考察することを計画していた。 このうち、①については、<研究実績の概要>でも触れたように、一般定期借地権の存続期間満了時に生じる法的問題およびそれに対応するための具体的な方法が判明した。もっとも、事業用借地権の実例を収集し、それらの実例に基づいて存続期間満了時の問題点を探る作業についてはなお継続中である。また、②については、示唆を得られるようなドイツ法の議論をなお調査中である。 以上より、現在までの進捗状況を上記のように評価した。
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度までの研究により、(1)定期借地権の存続期間満了時に生じる法的問題として、①定期借地権付き住宅購入者が、購入時に想定していなかったその後の事情の変化等により、存続期間満了を迎えても建物での居住を続けられるようにするなどの配慮が必要になるのではないか、また、②存続期間満了に伴う原状回復(借地上建物の収去と土地の返還)をめぐって紛争が生じるのではないか、などの点が判明した。そして、(2)上記②の原状回復については、当事者間の特約によってこれに対処する方策が注目された。 以上を踏まえて、本年度は、上記①②の問題を解決するための示唆を得るべく、主に、ドイツ法の定期賃貸借に関する議論を検討する。 このうちの①については、定期賃貸借の成立の局面(定期賃貸借の成立要件とそれをめぐる議論など)を取り上げる予定である。 他方で、②については、ドイツ法の議論を引き続き調査するが、日独で制度が根本的に異なっており、ドイツ法から有益な示唆を引き出すのは難しいことも予想される。そこで、これと並行して、事業用借地権(借地借家法23条)の実務についても調査・検討する。事業用借地権の中には既に存続期間の満了を迎えた事例があり、それらの事例の検討を通して、存続期間満了時における原状回復の現状と課題、その解決策等を抽出することができるのではないかと考えられるからである。
|
Causes of Carryover |
本年度は、主に、ドイツにおける現地調査の費用(旅費等)の支出を予定していた。もっとも、<現在までの進捗状況>等に記したように、ドイツ法の文献を調査したところ、日本法の問題を解決するために示唆を得られるようなドイツ法の議論が十分に見当たらず、なお調査を継続している。これらの文献調査によって調査項目を絞った上で、ドイツにおける現地調査を実施した方が効果的であると考えられることから、ドイツにおける現地調査の費用(旅費等)の支出を次年度に繰り越すこととした。 以上より、次年度使用額は、主にドイツにおける現地調査の費用(旅費等)に充当する他、文献調査のための費用(文献の購入等)に支出する予定である。
|
Research Products
(2 results)