2021 Fiscal Year Research-status Report
定期借地権における2042年問題――法解釈上・立法上の対応を考える
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17K03483
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
秋山 靖浩 早稲田大学, 法学学術院(法務研究科・法務教育研究センター), 教授 (10298094)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 定期借地権 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、定期借地権の存続期間満了時における原状回復(借地上建物の収去と土地の更地化による土地の返還)をめぐる法的紛争に対処するために、借地権者が一定の要件の下で土地所有者からその土地を買い取ることができる旨の当事者間の特約について、そのような特約が現実にどの程度使われているかを探ることを目的として、定期借地権を実際に運用している団体・企業等に聴き取り調査をすることを計画していた。しかし、以上の計画は、新型コロナ感染症拡大の影響により本年中に実施することができず、次年度に行うこととした。 そこで、本年度は、工作物を所有するための土地利用権であり、かつ、存続期間満了時に工作物を収去して土地を原状回復することが求められる点で定期借地権とも共通する、民法上の地上権の関連ルールを検討した。民法269条1項は、地上権の存続期間が満了した場合の地上権者の原状回復義務および工作物の収去権・収去義務を定めている。これに関して、地上権者は、土地所有者が土地を利用するのに必要な工事(地盛り工事や排水工事等)の結果については原状回復義務を負わず、むしろ、土地の価値が増加しているならば、その増加分の価値につき土地所有者に対して償還請求をすることができる、といった見解が一般的のようである。しかし、これとは異なり、地上権者は原状回復義務を負うのが原則であり、土地所有者が原状回復義務を免除しない限り、地上権者は工事の結果を収去する義務を負うという見解も主張されている。このように、地上権の存続期間満了時における原状回復の有無・範囲や価値増加分の費用償還請求の可否をめぐって、土地所有者と地上権者との間でどのような利益調整を図るかが議論されている。本研究課題が対象とする定期借地権の存続期間満了時における法的問題を考察するに当たっても、地上権に関する上述の議論から有益な示唆を得られるのではないかと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は、「研究実績の概要」に記したように、借地権者が一定の要件の下で土地所有者からその土地を買い取ることができる旨の当事者間の特約について、定期借地権を実際に運用している団体・企業等に聴き取り調査をすることを計画していた。しかし、新型コロナ感染症拡大の影響により、昨年度および本年度、この計画を実行することができなかった。他方で、この計画に代わり、昨年度は、定期建物賃貸借における法的問題について、また、本年度は、地上権の存続期間満了時における原状回復義務や工作物の収去権・収去義務について、それぞれ検討を加えることができ、本研究課題の解明にもつながる一定の知見を得ることができた。 以上より、現在までの進捗状況を上記のように評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
一昨年までの研究により、定期借地権の存続期間満了時における原状回復(借地上建物の収去と土地の更地化による土地の返還)をめぐる法的紛争に対処するために、借地権者が一定の要件の下で土地所有者からその土地を買い取ることができる旨の当事者間の特約が一定の役割を果たしうることが明らかになった。本年度は、そのような特約が現実にどの程度使われているかについて、定期借地権を実際に運用している団体・企業等に聴き取り調査をすることを計画していたが、新型コロナ感染症拡大の影響により、その計画を実現することができなかった。そこで、次年度は、感染防止に十分に配慮しつつ、以上の計画を実現することに重点を置く。具体的には、調査先の団体・企業等に対し、事前に可能な範囲で書面等による聴き取りを行うこととし、団体・企業等を訪問して聴き取りを行う時間は最小限に抑えることにしたい。 他方で、上記計画を実行できなかった昨年度および本年度に、定期建物賃貸借における法的問題について、および、地上権の存続期間満了時における原状回復義務や工作物の収去権・収去義務について、それぞれ一定の知見を得ることができた。次年度は、本研究課題を解明するに当たり、これらの知見をどのように活かすことができるかを精査することにしたい。
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Causes of Carryover |
本年度は、定期借地権を実際に運用している団体・企業等に聴き取り調査をすることを計画していたが、新型コロナ感染症拡大の影響により、この計画を実行することができず、そのために次年度使用額が生じた。したがって、次年度使用額は、主に、上記の聴き取り調査に支出する予定である。 他方で、「研究実績の概要」や「現在までの進捗状況」に記載したように、定期建物賃貸借における法的問題、および、地上権の存続期間満了時における原状回復義務や工作物の収去権・収去義務の検討を通じて、本研究課題の解明にもつながりうる一定の知見を得ることができた。そこで、この検討をさらに進めるべく、これらのテーマに関する文献等の収集にも次年度使用額を支出する予定である。
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Research Products
(3 results)