2017 Fiscal Year Research-status Report
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17K03488
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
玉井 利幸 一橋大学, 大学院法学研究科, 教授 (90377052)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | M&A / MBO / キャッシュアウト |
Outline of Annual Research Achievements |
M&A取引では、合併契約などの本体的な契約に関連して、様々な契約や条項が設けられるのが通常である。これらの付随的な契約・契約条項(M&A契約)のなかには、M&A取引の当事者の間における最適なリスク配分を可能にしたり、当事者間の情報の非対称性を緩和したりするなど、望ましい役割を果たすものもある。その一方で、M&A契約のなかには、会社支配権市場の機能を損ねたり、効率的な会社支配権の移動を妨げたり、取締役と会社や株主との間の利益相反を悪化させたりするなど、望ましくない効果を持つものもあるので、全てのM&A契約が許容されるべきではなく、契約自由が制限されるべき場合があると考えるべきである。そのため、本研究は、様々なM&A契約の内容を調査・分析し、それらが会社・株主の利益や取締役のインセンティブに与える影響、会社支配権市場に与える影響などを明らかにして、許容されるべきM&A契約とそうでないM&A契約を選別することによって、日本法の下でのM&A契約の自由の限界を明らかにすることを目的としている。 平成29年度は、取締役と会社・株主との間の利益相反を悪化させ、会社支配権市場の機能を損ねうる、利益相反M&A取引におけるM&A契約について研究を行った。特に、許容されるべきではないMBO契約の効力を否定し、MBOを差止めるために裁判所がどのような審査を行うべきかを中心に検討した。許容されるべきMBOとそうでないMBOを選別し、許容されるべきでないMBOを差止めるためには、対象会社の取締役の善管注意義務・忠実義務違反の有無に着目するのが端的であるので、会社法360条を被保全権利として、MBO契約の効力を否定し、MBO実施のために行われる公開買付けを差止める方法を検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度に行う予定だったのは、文献のサーベイとM&A契約の内容分析の一部である。これまで発表された主要な文献のサーベイは順調に進んだ。M&A契約の内容分析も、MBO契約という、組織法的観点と市場法的観点からの制約が必要と思われるM&A契約についての分析を行うことができたので、おおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は、引き続きM&A契約の内容の分析を行う。M&A契約は組織法的観点と市場法的観点からの制約に服すると考えるべきであるので、個々のM&A契約の内容が、会社や株主の利益に与える影響や、取締役のインセンティブに与える影響など、組織法的な側面に与える影響の有無やその程度、および、買収者や潜在的買収者のインセンティブに与える影響、会社支配権市場の機能に与える影響などの、市場法的な側面に与える影響の有無やその程度を分析していく。 M&A契約は、その内容を機能的な観点から分類すると、(1)情報の非対称性を緩和するもの、(2)リスク分配を行うもの、(3)M&A取引の進行プロセスを管理するもの、(4)M&A取引完了後の対象会社の経営や支配のあり方を予め定めるもの、に分けることができる。M&A契約の当事者の間では合理的と思われるこれらの機能が、どのようなメカニズムで組織法的・市場法的側面に影響を与えるかという外部性発生のメカニズムの解明と、ネガティブな影響の大きさの推定を行っていく。
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Causes of Carryover |
平成29年度は、研究会開催地が東京に集中した。そのため、出張旅費が当初の見込みよりも少なくて済んだため、次年度使用が生じた。 平成30年度は、大阪市立大学等、東京以外での開催が多く予定されているので、それにあてる予定である。
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