2017 Fiscal Year Research-status Report
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17K03491
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
竹浜 修 立命館大学, 法学部, 教授 (40188214)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山下 典孝 青山学院大学, 法学部, 教授 (00278087)
土岐 孝宏 中京大学, 法学部, 教授 (70434561)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 被保険者の自殺 / 精神障害中の自殺 / 主観的危険 / 保険事故招致 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、人の自ら招く危険、すなわち、主観的リスクに関する客観的な認識とそれに対する保険制度の対応のうち、被保険者の自殺の問題を中心に研究を進めた。ドイツ法やフランス法との比較法による基礎的な分析・検討とわが国の自殺案件の個別事例について判例研究を行った。 そこでは、まず、自殺に到る精神状態、とくにうつ病をはじめとする精神障害中の自殺が果たして被保険者自身の十分な意思能力がある状態での行為であるのかどうかが問題になる。精神医学の見地からは、約75%が精神生物学的障害の下で自殺を実行しているというドイツやイギリスの報告があった。しかし、生命保険契約の判例、たとえば、ドイツの多くの判例は、被保険者が自由な意思決定をできない精神障害中の自殺であるとは簡単には認めない立場を採っている。被保険者の自殺につきドイツ法は、生命保険契約締結から3年以内の自殺であれば、保険者は保険給付を免れる。その結果、保険金受取人が保険給付を受けられないことになる。このような状況は、日本法の下でも同様である。これでは、保険金受取人側にとって酷な場合があるのではないかという見方がある。とくに過労によるうつ病自殺の事案などでは、労働者災害補償保険は、保険給付を行う場合もあるからである。 現状は、被保険者の精神障害の影響がどれほどであるのか、保険金受取人の主張立証が容易でなく、また精神医学的見地からも事実が判然としないことも多い。不確かな事実を基にして保険給付はなされないこと、および保険契約締結から短い期間内の自殺につき保険給付を行うことのモラル・ハザードを考慮すると、現在の裁判動向が不当であるとまでは言いにくいというのが、現在までの検討状況である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
主観的リスクに対応する分野のうち、人保険、とくに生命保険や傷害保険という広く利用されている保険契約について、自殺の問題を中心に検討を進めた。被保険者が自殺する事情について、裁判例が示す認識と精神医学の立場が示す認識のそれぞれについて明らかにでき、裁判例の動向も、ドイツ法など外国法とともに、わが国の状況も個別事例の判例研究を通じて、部分的ではあるが、分析を進められた。このようなことから、人保険分野の検討は、相応に進捗したと考えている。ただ、自動車保険をはじめとする損害保険分野の科学技術の進展に伴う主観的リスクの変容に対応する部分は、研究成果をまとめられる段階には至っていないので、この点が今後の課題である。
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Strategy for Future Research Activity |
被保険者の自殺の問題のみならず、その他の主観的リスクの対応につき人保険分野の検討を進めるとともに、AIをはじめとして科学技術の発展に伴う損害保険分野の対応について、検討を広げ、当初の研究計画に沿って研究を遂行する。 とくに損害保険分野の研究については、先進各国の基本的なルールのあり様を正確に理解しつつ、現代的な発展分野につき、研究分担者との意見交換をいっそう頻繁にしながら進める方針である。 比較法研究は、もちろんであるが、日本の現状についても、正確な認識を得ることが重要であることから、主観的リスクに関わる事実につき専門家の助力を得ることも想定して検討を進める予定である。
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Causes of Carryover |
海外の調査対象国への出張予定が1件について条件が整わず、断念したこと、また、専門知識・情報の入手について、謝金等の支払を予定していたが、とくにその謝礼等を要しなかったことなどにより残額が生じた。 次年度は、これらを補うことを予定しているので、本年度の残額を繰り越し、次年度において使用する予定である。
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Research Products
(4 results)