2018 Fiscal Year Research-status Report
会社訴訟のコーポレートガバナンスにおける役割の変容
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17K03492
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
山田 泰弘 立命館大学, 法学部, 教授 (00325979)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 取締役の第三者責任 / 安全配慮義務 / 会社法429条 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,会社訴訟がコーポレートガバナンスにおいて果たす役割を考察するところにあり,(あ)閉鎖型の会社と(い)上場会社についてその果たす役割が異なることから,両者を分けて考察したいとしている。このうちの二つ目の(い)である,会社の補償制度について,その問題状況を把握すべく,まず,会社法429条責任と会社との責任との関係性を巡る問題として,従業員が会社の雇用契約上の安全配慮義務に反して生命・健康などに被害を被った場合における,取締役の責任の内容について検討を加えた。 研究の成果は,山田泰弘「会社の安全配慮義務違反と取締役の第三者責任」水島郁子=山下眞弘編著『中小企業の法務と理論―労働法と会社法の連携』(中央経済社,2018年11月)340-358頁にまとめた。 この点で,会社の業務執行につき取締役が責任を負うのは,(1)取締役の業務上の直接的な行為により第三者に損害を発生させる場合と(2)会社の業務により損害を被った第三者に対して会社が損害賠償責任を負担する場合に,取締役の職務上の任務懈怠を基礎に損害賠償責任を負担する場合とがあり,(1)は会社法350条(法人の不法行為能力)により会社に損害賠償責任が発生することで,取締役の任務懈怠の基礎があり,(2)は通常,不法行為は成立しないが,会社法429条が基礎となり,認められる余地があるが,具体的な損害発生の結果回避可能性が肯定される場合に責任発生が限られる(べきである)ことがわかった。この点で,そもそも,現在立法が確実となった会社の訴訟がどのような事象でワークするか,検証が必要であることを示す基礎的な研究といえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
端的には,申請時には予想されていなかった事象であるが,学内行政の役職を2017年度・2018年度に実施したため,両年度における本研究に対するエフォートが十分に確保できなかったところによる。 また,具体的な仲裁判断につき当事者の対応に関する情報を十分には得ることができない可能性があるため,民事訴訟法の理念に基づく当事者主義が会社訴訟においてどのような取扱いがなされるかという点につき,例えば,名古屋地判平成19年11月21日金判1294号60頁とそれを巡る議論を基礎に問題点を再認識した上で,調査を実施したい。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度は学内行政の役職を離れたこともあり,本研究に対するエフォート率を当初の予定しているレベルとすることができる。会社の補償制度については,立法がほぼ確実となり,その内容が明確化していることから,制度分析を急ぎ,2019年度は国外での調査を実施すべく,その準備を行いたい。
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Causes of Carryover |
2018年度は,申請時に予測せずに2017年度に就任した学内行政役職(法学部副学部長)の任期2年目であり,学内行政役職の任期中は学内業務多忙のため,予定してたアメリカ・ヨーロッパでの調査を実施することができなかった。また,同様の理由により,本研究に関するエフォート率が当初の想定からみてひくくなってしまい,研究の進度が遅れているのが,次年度使用額が生じた理由である。2019年度は学内行政役職の任期が終了し,エフォート率も改善することが可能である。2019年9月および2020年3月に予定している海外調査を実施することで,研究の遅れを取り戻したい。
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