2018 Fiscal Year Research-status Report
医療事故調査制度等の運用による医療訴訟の役割変容と機能分担
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17K03502
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
畑中 綾子 東京大学, 高齢社会総合研究機構, 客員研究員 (10436503)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 医療事故 / 医療事故調査制度 / 被害者救済 / 司法の役割 / 原因究明 / 再発防止機能 |
Outline of Annual Research Achievements |
過去、薬害の国家賠償訴訟は補償的な被害救済の役割を担ってきた歴史がある。民事訴訟の機能には、損害填補以外にも被害者にとっての事故の原因究明や被告への制裁も事実上含まれる。これまで医療過誤をめぐる民事訴訟、また刑事訴訟も社会における原因究明や救済制度の機能不全を補完する形で運用されてきた。しかし、これにより訴訟の本来の機能が歪められる可能性もある。2015年10月に医療事故調査制度が開始され、原因究明の機能分担が期待される。他にも産科無過失補償制度による救済制度の整備、医師の行政処分の強化など責任追及機能が追加された。新たな制度運用の中で、医療過誤の民事訴訟、刑事訴訟が従来担ってきた役割が変化するはずである。司法の社会における役割の変容と、司法と政策との望ましい相互連関を検討する。 2年次となる本年は、2018年度日本医事法学会において個別報告「日本の医療分野の賠償訴訟にみられる積極的司法とその修正―近年の医療事故調査制度や救済制度との相互作用も念頭において」を行い、同学会の年報にも報告予定である。また、2015年10月より開始された医療事故調査制度が3年目となることから、3年間での事故調査制度の運用状況と、司法との関係について調査を行った。この成果は、畑中綾子「医療安全に向けた医療事故調査制度の創設―医と法の協働」河上正二・大澤彩『人間の尊厳と法の役割―消費者法を超えて(廣瀬久和先生古稀記念)』信山社(2018.12)においてまとめた。 また同研究に関する国際学会での報告も複数を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
医療事故調査制度およびその他の医療安全政策・制度による訴訟数や訴訟内容への変化を時系列として追う。念頭におくのは、原因究明手段としての事故調査制度、責任追及手段として医師の行政処分および再教育の実施、被害救済制度としては産科無過失補償制度である。2年目の課題として医療事故調査制度および救済制度と、医療過誤関係訴訟との関係について考察した。医療過誤訴訟に期待されてきた原因究明、責任追及、被害救済の機能に変化がみられるのか、原告の訴訟提起の傾向や、裁判官の司法判断への影響、また訴訟に対する政策や社会の期待と反応の点について、文献調査などで議論を整理するほか、患者側・医療側の弁護士等にも、学会での意見交換を行うことができた。また、現在の日本の医療事故調査の動向について、海外での学会報告も行った。(“The review of the reason why Administrative penalty for medical malpractice is weak in Japan.”(Poster Oral presentation) 7th World Congress of Clinical Safety, International Association of Risk Management in Medicine(IARMM),7-8 Sep 2018 、“Establishment of the Medical Accident Investigation System in Japan and Future Challenge between Doctors and Judges”(poster) The 24th World Association of Medical Law, Israel, 2-6 Sep 2018など)
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Strategy for Future Research Activity |
これまでは、日本の医療事故調査制度についての調査を中心に進めてきた。終末期の延命治療の中止等を訴訟で扱うのではなく、治療中止等の話し合いが尊重されることの必要性や、これら話し合いの結果を確認訴訟等で正当性が確認される可能性がないかという点も今後検討していく。 また、医療安全をめぐる議論では多くの比較法的視点が導入されるが、中でも米国は日本に大きな影響を与えている。例えば、米国では医療事故情報の訴訟利用を制限する立法があることから、日本でも同様の規定を置くべきであるとの議論や、米国の刑事責任追及が稀であり、日本でも刑事介入を控えるべきであるとの議論がなされてきた。しかし、これら違いは日米の訴訟制度の違いによるものが大きい。事故情報の訴訟利用については、職業裁判官により訴訟が指揮され、懲罰的損害賠償のような高額賠償が命ぜられることのない日本においては米国に比べ弊害が少ないと考えられる。刑事医療過誤については、米国では州による医師の免許管理と連動した行政処分が日本よりも機能しているなどの制度上の違いも大きい。また、医療過誤事件の内容についても、日本は国民皆保険のもと画一的ではあるが高度な医療が提供されない傾向がある一方で、米国では自由診療のもと高度な医療技術が提供される環境にあり、高度かつ複雑な医療技術故に高度かつ複雑な医療過誤事例が起きているとの議論もある。今後は、比較研究の視点を強化し、医療訴訟あるいは医療事故として捉えられる内容そのもの、さらに提供される医療技術の違いにも注目し、医療安全の議論の内容の異同を把握したい。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、本研究費で予定していた調査研究の米国の研究者ロバートレフラー先生が、夏に来日する機会があり、その際にお会いして研究進捗状況の報告と意見交換をすることが可能であったため、次年度に繰り越し、次年度改めてその後の進捗を報告することとした。また、使用して6年目になるPC等の機器の買い替えも検討していたが現時点でもまだ使用可能であったため、次年度に繰り越して、使用することとした。
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Research Products
(5 results)