2018 Fiscal Year Research-status Report
人格の関連する知財保護の意義を巡る再考察-スポーツ界を例に公共的利益の視点から-
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17K03505
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
安東 奈穂子 九州大学, 法学研究院, 専門研究員 (50380655)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | パブリシティ権 / プライバシー権 / 知的財産 / 人格の関連する情報 / 自己決定 / 契約 / 行為規範 / 社会的な価値 |
Outline of Annual Research Achievements |
肖像の関連する判例について、肖像権とパブリシティ権それぞれについて、社会的および法的な認知過程に沿って、黎明期、成長前期、成長後期と整理し、ここ数年の判例を分析したうえで、現在は、権利の性質が具体化されていく発展期に移っていることを明らかにした。 また、スポーツ選手の肖像の法的保護と限界について、侵害の判断基準と裁判例から示すとともに、スポーツ選手の肖像の利用と制約について、契約(統一契約書、スポーツ選手の労働者性、独占禁止法の適用可能性)の観点からも考察を試みた。その結果、芸能人ほどではないものの一般人よりは保護に限界のあること、契約の面では肖像を管理する側(球団など)への肖像に関するあらゆる権利譲渡を誤解させる内容が含まれていたり、労働者性では労働基準法の労働者とはいえないが、労働組合法では労働者に該当し、租税法では事業主扱いという、解釈が割れて安定した立場になかったりすることも分かった。一方、2018年の「人材と競争政策に関する検討会報告書」のなかで、スポーツ選手のような典型的な労働者ではない者に、独占禁止法が適用されると記されたことから、こうした動きが、契約内容や両者の関係性改善に寄与するものとの見解を示した。 さらに、スポーツ選手の社会とのかかわりを検討することによって、スポーツ選手の肖像には、従来から指摘されている人格的および経済的な価値ばかりでなく、みんなの利益につながる社会的な価値を見出すに至った。この社会的な価値という見地は、本研究のテーマである公共的な利益の視点から知財保護の意義を再考するうえで、重要な視座になるものと思われる。現在、アメリカのプライバシー権の議論では社会的な価値が注目されており、今後、より考察を深めて本研究への示唆を得たい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
大きく二つの理由がある。 第一に、本研究では、スポーツ界を例に「公共的利益」という視点から、氏名や肖像といった人格の関連する知財の保護の意義を考察しようとするものであるが、その過程で、スポーツ選手の氏名や肖像には、人格的および経済的な価値ばかりでなく、「社会的な価値」もあるという結論に至った。一方で、この社会的な価値なるのもが、人格的および経済的な価値と対峙するのか、また、共通価値や公共的価値といった他の価値概念とどう異なるのかなど不明瞭な点もあり、これを解決し、明確さを追求することに時間を要している。 第二に、本研究では、パブリシティ権の支分権化を唱えているが、支分権それぞれの権利の性質(譲渡や保護期間)を見極めるのに必要な根拠を探求することは、氏名や肖像を法的に保護する意義と結びつき、さらには、人格権や知的財産権を正当づける理由を導き出すことにもなる。一方で、この作業は、民法学や知的財産法学にとどまらず、法哲学の分野にもおよぶ広範囲の考察が必要となり想定していたよりも時間を要している。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、本研究では、氏名や肖像の人格的および経済的な価値にくわえ、あらたに社会的な価値のあることを見出し着目しているが、現在、アメリカで、プライバシー権を保護することの意義において、プライバシー権が社会的な価値を有するとの見解が有力に主張されている。このようなアメリカの動向についてさらに考察を進めることは、本研究が視点とする公共的な利益の実体や、氏名や肖像の社会的な価値がいかなるものかを確立する作業に、たいへん有意義な示唆を得られると考える。 つぎに、平成30年度、スポーツマネジメント学会に入会したことにより、スポーツやスポーツ選手が有する価値が、地域や社会、または本人にどのような影響や利益をもたらすのかについて、現状をアンケートや統計によりつぶさに分析するという、本研究の今までの手法とは異なるアプローチからの研究を知るに至った。当該学会の会員との交流は、本研究に新しい気付きやブレイクスルーをもたらすものと思われる。
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Causes of Carryover |
物品費で、洋書(1冊2~3万程度)2冊と和書(1冊3~5千円程度)2冊を購入する予定だったが、絶版となっていたり年度内の納品が難しかったりしたため次年度使用額が生じた。代わる本を探したり納品時期を確認したりしたうえで、あらためて図書の購入などに使用する計画である。
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