人格の関連する知財保護の意義を巡る再考察－スポーツ界を例に公共的利益の視点から－

2021 Fiscal Year Research-status Report

• Project/Area Number: 17K03505
• Research Institution: Kyushu University
• Principal Investigator: 安東 奈穂子 九州大学, 法学研究院, 専門研究員 (50380655)
• Project Period (FY): 2017-04-01 – 2023-03-31
• Keywords: パブリシティ権 / 肖像権 / 自己決定の尊重 / 独占的な利用許諾 / 人格権 / 民法総則 / 私益と公益

Outline of Annual Research Achievements

これまでの研究で、私益と公益の関係性への考察から、スポーツ選手の、人格的（心）、経済的（カネ）、社会的（協同）側面に対する自由な意思、自己決定を尊重することが、スポーツ選手の私益、自律に寄与するだけでなく、公益、すなわち他者の活力の源泉となり、ひいては、一人ひとりの私益に結びついていくことを明らかにできた。
当該年度では、肖像権やパブリシティ権の再構築を試みるに際して、スポーツ選手の個々の自由な人格の発現と形成（自由な意思と自己決定の尊重）を第一義としながら、所属団体などとの契約の内容、とくに権利をめぐる帰属や独占的な利用許諾について検討を行った。
そして、肖像権やパブリシティ権は、その人格権性ゆえに包括的な譲渡は認めがたいものの、独占的な利用許諾は不当ではないこと、ただし、わかりやすい説明と透明性が確保されたうえであって、さらに、権利譲渡が可能な知的財産権一般とは異なることを踏まえれば、独占的な利用許諾の成立後においても、所属団体などはスポーツ選手の意思に配慮を要することを明確にできた。
今後も、肖像という人格の関連する知財について、その保護の意義を、私益と公益（みんなの利益）の循環という観点から捉えなおすこと、また、人格権の社会的な意義について、人格権に関する規定を民法総則に定めるかどうかといった議論を検証することにより、人格権と知的財産権がどのように位置づけられるべきかへと考察をより深めていきたい。

Current Status of Research Progress

3: Progress in research has been slightly delayed.

Reason

現在まで、肖像の社会的な側面の本質について、私益と公益の関係性に着目した考察をすすめていくと、パブリシティ権をはじめとした人格にまつわる権利の、社会的な位置づけのありかたが問われるに至っている。
この作業は、人格権の社会的な意義のようなものを探ることへ連なり広がっていくことから、人格権に関する規定を民法総則に定めるかどうかといった議論にも、さらに着目していかなければならない状況にある。
しかし、前年度と同様に、新型コロナウイルス感染症の拡大によって、予定していた出張や研究会への参加を取りやめざるをえなかったり、論文執筆のための資料収集が中断したりして、進捗に遅れを生じる結果となった。

Strategy for Future Research Activity

２０２１年度には、東京、北京の冬季と、オリンピック・パラリンピックが続いて行われるなか、スポーツそしてスポーツ選手への注目は今までになく高まりを見せた。スポーツ選手の発言や行動が、映像をとおして、多様性の推進や平和の希求といった社会的な関心事に結び付けられ度々報じられた。一方で、スポーツ選手に対するＳＮＳ等での誹謗中傷が大きな問題となり、スポーツ庁長官から国民へ向けてのメッセージが発信されたこともあった。
こうした現象を、スポーツ選手の社会的な影響力、彼らの尊厳と人格の保護、またスポーツ選手と社会の相互作用を理解する手がかりのひとつとして分析していきたい。
くわえて、中華人民共和国民法典（２０２１年１月１日施行）が、人格権と題する編を独立して置いたことや、肖像権について明文化したことなど、考察の対象に含めていきたい。

Causes of Carryover

前年度と同様に、新型コロナウイルス感染症の拡大による研究計画変更等の理由により、次年度使用額が生ずる状況となった。当該年度内に遂行できなかった旅費や物品費に使用する計画である。