2020 Fiscal Year Research-status Report
日独におけるメディア法およびカルテル法上のクロスメディア所有規制の現状と法的枠組
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17K03507
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Research Institution | Aichi Prefectural University |
Principal Investigator |
杉原 周治 愛知県立大学, 外国語学部, 准教授 (50456191)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | メディアの領域における意見多様性 / 日独におけるクロスメディア規制 / 日独におけるオンライン・コンテンツ規制 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、意見多様性の確保という観点から、放送を含むメディアの法的枠組みにつき、日独の比較研究に基づいて検討するものである。 研究初年度は、とりわけドイツにおける放送法上のクロスメディア所有規制につき、とりわけ判例・学説の議論を中心に検討を行った。その成果の一部は、①杉原周治「民間放送における『支配的な意見の力』と集中排除規制」工藤達朗・ 西原博史・鈴木秀美他編『戸波江二先生古希記念憲法学の創造的発展(上巻)』 (信山社・2017)623-649頁において、既に公表された。 研究2年目以降は、本研究テーマから派生する問題として、公共放送によるオンライン・コンテンツの配信に対する法規制についての検討を開始した。すなわち、公共放送事業者が、テレビでの番組配信だけでなく、インターネットを介して自己のコンテンツや番組を配信する場合に、意見多様性の観点から、こうした 公共放送の業務をどのように規制すべきかについて検討を行なっている。その成果の一部は、②杉原周治「ドイツにおける公共放送のオンライン・コンテンツと 法規制(一)(二・完) 」愛知県立大学外国語学部紀要51号117-163頁(地域研究・国際学編)、愛知県立大学大学院国際文化研究科論集20号37-69頁(2019 年)、③同・「公共放送のオンライン・コンテンツと『プレスとの類似性』の判断」慶應義塾大学メディア・コミュニケーション69号39-53頁(2019年)、④同・「第22次改正放送州際協定と公共放送のテレメディア任務」総務省学術雑誌『情報通信政策研究』第3巻第2号71-94頁(2020)で公表された。 現在までのこうした研究によって、ドイツにおけるメディア法上の集中排除規制、および公共放送によるオンライン・コンテンツ規制の現状と法的枠組みの詳細が明らかとなってきた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究の当初の目的は、日独のクロスメディア所有規制の現状と法的枠組を明らかにすることにあった。具体的には、ドイツ最大のメディア企業であるAxel Springer社によって企てられた、ドイツ民間放送最大手の一つであるProSiebenSat.1社の合併計画事件をめぐる一連の裁判の分析を中心に、研究を行うことにあった。実際にその成果の一部は既に論文として公表され、それによってドイツにおけるメディア法上の集中排除規制における現状と法的枠組みの詳細を明らかにした。 ただし、その後、日独の最近の動きとして、公共放送事業者が放送だけでなく、インターネットを介して自己のコンテンツを提供する業務を拡大するという傾向が顕著になった。このことに鑑みて、公共放送のオンラインコンテンツに対する法的規制についても、そのあり方を巡って議論が生じていた。すなわち、民間放送と異なり、受信料(ドイツでは放送負担金)で業務運営を行う放送事業者が、インターネットを介して放送番組を(同時配信またはオンデマンド)で提供し、さらに自己のポータルサイトで記事や画像を提供すれば、民間の放送事業者や出版社の業務を圧迫する可能性が生じるからである。 それゆえ、メディアの領域における意見の多様性の確保のためには、民間事業者によるプレス、放送、インターネットの所有規制だけでなく、公共放送事業者によるインターネットのコンテンツ規制も重要となってくるのである。このことから、本研究は、2年目以降は民間放送に対する規制だけでなく、公共放送に対する規制についても検討を加えることになった。このため、本研究は研究期間を延長してこの問題に取り組む必要が生じた。 さらに、令和2年度は、新型コロナウイルスの影響で資料収集、とりわけドイツ語文献の入手に大幅な遅れが生じ、研究に遅れが生じることとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、本研究の最後の年ということもあり、さらにいくつかの論点に取り組む予定である。すなわち、1年目の民間放送のクロスメディア規制、2・3・4年目の公共放送のオンライン・コンテンツ規制の研究に加え、今年度は、①民間放送事業者および公共放送事業者の、インターネットを介したライブストリーミングによる番組提供をめぐる問題、②Axel Springer社の合併計画をめぐり2006年に連邦カルテル局が下した不許可処分決定と、それに対して提起された訴えをめぐるデュッセルドルフ上級地方裁判所決定、およびその上告審である連邦通常裁判所の決定の分析、③最近のクロスメディア規制をめぐる法改正の動き、等を扱う予定である。 このうち、①の問題につき、日本だけでなくドイツにおいても、東京オリンピック・パラリンピックなどの大イベントの開催を控え、公共放送事業者だけでなく民間放送事業者 も、今後は自身の番組をオンラインで同時配信していくと予想される。しかし、この場合、このようなコンテンツは放送番組とみなされて放送法の規制を受けるのか否か、またそうだとしても、どのような法的枠組みが必要なのか、という問題が生じうる。こうした問題につき、本研究は、日独の比較を中心に検討を行うことにしたい。 また、上記②および③についても、現在ドイツでは、クロスメディア規制をめぐるメディア法上およびカルテル法上の問題はいまなお議論されているところであり、今後の法改正のテーマとなりつつある。このような動きを研究するためにも、連邦カルテル局の判断や同判断をめぐる裁判所の立場につき、分析をしていきたい。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの影響で、出張費の残額が出たため。残額分は、物品費の購入にあてる。
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