2018 Fiscal Year Research-status Report
診療情報の保護と利活用 ━国民健康記録データベース構築を目指して
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17K03508
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Research Institution | Yamaguchi Prefectural University |
Principal Investigator |
増成 直美 山口県立大学, 看護栄養学部, 教授 (80538843)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 医療情報 / 二次利用 / オプトアウト / プライバシー / 公益 / 電子医療記録 / データ連結 / 情報管理 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、オーストラリアの患者の診療情報から構成される国家レベルのデータベースMy Health Record(以下「MyHR」という。)システムに関して、現地調査を通して現状と課題を検討した。 オーストラリアでの最初の国家レベルの電子患者医療記録システムとして2012年にスタートしたPersonally Controlled Electronic Health Recordsシステムは、オプトイン方式であったためか、患者、医療機関ともに10パーセント前後の参加率にとどまった。そこで2013年のレビューを経て、2015年11月27日、すべてのオーストラリア人のために一貫した生涯電子健康記録システムを継続的に運営するために、法律が改正されMyHR法2012(連邦法)という名称になった。 参加方式に関しては、同法施行規則に則り、2016年6月中旬-10月に、オーストラリア国内2地点でオプトアウト・トライアルが行われ、結果的にオプトアウト率は1.9%にすぎなかった。そこで政府は、住民の理解が得られたとして、2019年1月31日までにオプトアウトしなかった住民全員に対してMyHRを作成し、システムを運用することとした。 この間、2018年11月26日、オーストラリア議会はMyHR改正(プライバシーの強化)法案を可決した。本改正は、MyHRを使用している者に対して、より強力なプライバシーとセキュリティの保護を求めるオーストラリアのコミュニティの要望に応えるものである。 データ主体の治療目的を超えるMyHRの二次利用に関しては、2018年5月11日に連邦保健大臣が、MyHRデータの二次利用のための開示は実施計画の確定と枠組みのガバナンスの取り決めの確立を条件として、2020年から開始する予定である、と慎重な検討を重ねる姿勢を示している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
オーストラリアにおいて実務担当者に話を聞く機会を持つことができたことで、事態の深刻さをよく理解することができた。患者の自己情報コントロール権を保護することは重要であるが、他方で、その保護を手厚くすればするほど、診療情報のデータベースとしての可用性の低下は防げないように思われた。 患者の自己情報コントロール権を尊重することにより、診療情報データベースは患者の都合により完全な真実を反映するものではなくなり、臨床医は当該データベースだけからでは患者の現状を把握することが困難になる場合が生じ得る。 医事法学を研究し、疫学研究を行う者として、患者の自己情報コントロール権と、精確な患者の診療情報を保管するデータベースの利益の調整を図るため、さらに考察を深めたい。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの調査から、患者、医療機関等の利害関係者との効果的なコミュニケーション、特にプライバシーが関わる利害関係者とのコミュニケーションは、単なる情報の提供以上のものでなければならないと思われる。そして、おそらく真の課題は、透明な責任ある法の執行にある。単に法律を整備するだけでは、国民や利害関係者らの支持を得るには不十分である。プロジェクト周辺の透明性の欠如と、これがデータ再利用に関する信頼を蝕むという結果が浮かび上がってくるように思われる。透明性を生み出す手段としての住民参加と、研究におけるデータ再利用の公的利益に関する意識を高めることは、利害関係者にとって非常に重要なテーマであると考えるようになった。 そのためにオーストラリア政府は、多くの時間と予算を使ってきた。パブリック・エンゲージメントを含めた、各国の対応にも触れてみたい。、
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Causes of Carryover |
本年度は、スケジュール上の理由から、わが国における国民健康記録の登録状況を把握する機会を得ることができなかった。そこで来年度は、日本医療情報学会、日本疫学会、日本卵子学会学術集会等に参加することで、わが国の現状をしっかり把握することにしたい。
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[Book] 医事法辞典2018
Author(s)
甲斐克則編集代表 増成直美 他125名著
Total Pages
592
Publisher
信山社
ISBN
9784797270150