2018 Fiscal Year Research-status Report
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17K03518
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Research Institution | Nanzan University |
Principal Investigator |
佐藤 勤 南山大学, 法学部, 教授 (50513587)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
福井 修 富山大学, 経済学部, 教授 (00512691)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 福祉型信託 / 信託受益権 / 譲渡制限 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度の研究実績は次のとおりである。 第1に、2018年6月9日に開催された信託法学会において、前年度の研究成果である受益権の法的性質について、「福祉型信託の利用拡大にあたっての日本法の課題―受益権の法的性質を中心に―」というテーマで、報告を行った。同報告は、受益権の法的性質について、①譲渡禁止、②差押禁止・強制執行の禁止、③破産財団等への組み込みの否定という、三つの論点にしぼり、イギリスの法理を解明し、我が国での、受益権の任意・強制処分の制限(禁止)の可否について、一定の方向性を提示するものである。この報告については、その後の研究成果を反映させ、同年12月25日に公刊された「信託法研究」43巻で、論文として公表した。さらに、差押禁止については、2018年3月に公表した論文「信託受益権に対する差押え」における研究成果を深化させるため、我が国において差押え回避が認められる具体的な基準を検討している。 第2に、「福祉型信託」の機能や我が国法制における課題の研究を行った。我が国の高齢化の進展から、近時「福祉型信託」が脚光を浴びている。そこで、2018年度は、同じように高齢化社会を迎えている英米において、どのような機能を持った信託が活用されているかを分析し、我が国法制のもと、同様の機能を信託に持たせることができるか、その場合の課題は何かを研究した。この研究成果の一部は、前記学会での報告および2018年10月15日に公刊された「信託フォーラム」10号で、論文として公表した。 第3に、アメリカの家族信託に関する実務家への聴き取り調査(2019年3月)を行った。この調査は、これまでの研究を続ける中で生じた疑問点や不明点を明らかにするために行ったものである。文献では得られない貴重な情報が得られた。これらについては、2019年度の研究に生かし、論文として公表する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績を基準とした場合の進捗状況は、次のとおりである。 平成29年度科学研究費助成事業(学術研究助成基金助成金)交付申請書では、本研究の目的を三つ記載した(【課題1】から【課題3】)。【課題1】は、2018年12月25日に公表した論文「福祉型信託の利用拡大にあたっての日本法の課題―受益権の法的性質を中心に―」で、これまでの研究成果を総括することができた。【課題2】については、2018年3月に公表した論文「信託受益権に対する差押え」において、裁量信託に係る検討課題を提示している。2019年度は、この内容の深度を深め、2019年度内にその研究成果を公表する予定である。【課題3】については、現行規制の課題の検討を行い、その研究成果は、2018年10月15日に論文「福祉型信託のあり方」で公表した。 研究実施状況を基準として進捗状況は、次のとおりである。 定期的に開催される研究会に参画し、国内外の実務家や研究者と意見交換を行う等によって、実務動向を把握し、かつ問題点や課題を認識でき、論点の絞り込みができた。また、2018年度は、信託の研究者や実務家が加入する信託法学会にて、これまでの研究成果を発表し、示唆のある多くの指摘・意見を得られた。これらの指摘・意見を踏まえ、さらに研究を深め、また研究の軌道修正を行うことができた。さらに、2019年の3月には、家族信託が盛んにおこなわれているアメリカの実務家と意見交換を行い、文献では得られない、アメリカにおける家族信託の多くの知見や最新の情報を得ることができた。これらの知見・情報をもとに、2019年度は、研究の深度を深めることができるものと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度は、前年度までの研究成果を踏まえ、以下の二つの研究成果を公表することを目標に研究を推進する。 第1に、福祉型信託の中心をなすであろう家族信託の規制の是非やあり方について、現行規制における課題は2018年度までに整理できた。2019年度は、信託法、信託業法、金融商品取引法など、信託を規制・規律する法律を考察し、より具体的な施策としてどのように規制をすべきかについて、研究を行い、その研究成果を公表する。 第2に、アメリカの家族信託の現状を踏まえ、今後訪れるであろう高齢化社会に備え、我が国の信託法制のもとで有益な信託の法構造について研究を行う。この研究では、現時点で考察が不十分である【課題2】の受託者の裁量権について、より突っ込んだ研究を行う予定である。 第3に、英米で実際に行われている裁量信託を類型化し、その類型別に我が国法制のもとで成立するか、また立法として、どのような規制が必要かを検討し、2019年度にその一連の研究成果を論文として公表する。
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Causes of Carryover |
アメリカへの現地調査の期日が研究分担者の学内公務の日時と重なり、現地調査に行くことができなくなり、その費用相当額が次年度繰り越しとなった。 この費用については、2018年度の現地調査において不十分であった調査事項に関する調査費用に充当する予定である。
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Research Products
(3 results)