2018 Fiscal Year Research-status Report
現代アメリカ政党の「支持者連合」形成の変容:選挙過程の集票戦略を中心に
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17K03522
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
渡辺 将人 北海道大学, メディア・コミュニケーション研究院, 准教授 (80588814)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 政党 / 共和党 / 民主党 / 集票 / アウトリーチ |
Outline of Annual Research Achievements |
2年度目は中間選挙年であることを踏まえ、トランプ政権と共和党の関係性、民主党内の支持者連合の形成に焦点を絞り、中間選挙前の現地調査も行なった。共和党の支持基盤に関しては、 W・ブッシュ政権との比較において宗教保守派が、候補者本人の敬虔さよりも候補者の実行力を評価する変容期にあること、トランプ支持マシーンとしては宗教保守派を代表に「トランプ連合」が共和党の集票マシーンとしては伝統的な支持基盤に依存していることを明らかにした。具体的にはかつてパット・ロバートソン牧師の「キリスト教連合」の組織化に手腕を発揮したラルフ・リードが率いる「信仰と自由の連合」についてアイオワ州での現地調査も含めて詳細に分析した。宗教保守派と財政保守派の党内分断を抑制する「党内架橋」の争点選択が行われていることなど1990年代までの宗教保守派との差異も浮き彫りにした。事例研究として、最高裁判事指名問題と分極化の関係について、世俗派が保守的なキリスト教徒の政治的倫理観を理解していないことが判事指名をめぐる世論形成における方向性の背景にあったことを分析した。また、民主党側では民主党内で白人労働者票の取り戻しについては、労働組合を支持母体にする労組系のリベラル派が僅かにそれを唱えるに留まり、白人労働者票を放棄することはやむを得ないという気配が強い中、かつての中道系「ブルードッグ」の基盤だった文化的に保守的な地域がトランプ大統領に抱え込まれる過程で、1990年代にも増して西部ハイテク基盤に民主党が資金面で依存が深化し、穏健派の変質も変容を余儀なくされていることを明らかにした。リベラル派内で労働組合の影響力が縮小し、文化的リベラル派が台頭し、「アイデンティティ政治」の奥に控える別の層の分断としての学歴・所得の差についても明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
中間選挙年における現地調査が、通常観察しにくい宗教保守派の集会に参加する形で遂行できたことの他、本研究の中間的分析を国際報告等でアメリカの専門家のみならずアジアの政治学者と幅広く討議することで多面的に検証できた。これにより、民主党の総リベラル化現象にも見える情勢の裏で、民主党内のリベラル派と穏健派の対立軸の性質が変容していることなど、過去の研究との連動性も今期において多々浮き彫りになった。 また、これらの成果を複数の論文にまとめることができた他、トランプ支持母体の白人労働者層の文化的な系譜を詳述した原書の翻訳を行なう中で、貧困白人層を政治的に分析する解説論文も執筆した。政党の支持者連合に関係する選挙運動の変容をめぐる研究も進め、アメリカの選挙が資金面での選挙規模は増大の一途をたどっているが、キャンペーン規模の絶対量が勝利を約束しないことを2018年中間選挙の事例でも再確認した。大口献金者の独占の一方で小口献金が堅調に伸びていること、「地上戦」による票の駆り出しは終焉を迎えたわけではなく、デジタル技術を取り入れながら存続しており、そこにも資金が投入されていること、依然としてテレビ広告が衰退していないのもデジタル化の裏返しでもあることなども明らかにした。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度は、2020年大統領選挙における予備選挙過程の現地調査を通して、民主党と共和党の支持基盤の変容を全国政党機感、州政党機関との関係性に注目して調査を継続する。アイオワ党員集会、ニューハンプシャー予備選挙の現地調査も行なう。また、ソーシャルメディアの弊害に関しても分析を広げる。ソーシャルメディアによるネガティブ・キャンペーン、諸外国の選挙介入など、民主政治の基礎が脅かされかねないデジタル新技術の一般化に伴う倫理問題に対し、選挙現場はどのような対応が可能なのかも考察する。その上で3年間の研究を統合する成果発表を行なう。
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