2019 Fiscal Year Research-status Report
調整型市場経済レジームの構造的再編をめぐる長期的政策変化の分析
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17K03524
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
西岡 晋 東北大学, 法学研究科, 教授 (20506919)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 調整型市場経済 / 企業統治改革 / 競争政策 / 政策過程 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、調整型市場経済に分類されてきた日本型経済レジームの構造的再編の過程で企業活動に対する規制強化を意図する政策がなぜ実現したのかを長期的視座から解明することにある。この目的の達成に向けて、2019年度は、主として、企業統治改革に関する政策過程の事例研究に取り組むとともに、競争政策(独占禁止政策)の政策過程の事例研究を進めた。 1990年代以降、日本の調整型市場経済を自由主義型市場経済へと改革する取り組みが進められてきた。その代表的なものが企業統治改革である。第二次安倍政権はとくに企業統治改革に熱心に取り組み、会社法の改正、コーポレートガバナンス・コードおよびスチュワードシップ・コードの策定など、大きな制度改革を矢継ぎ早に実現させてきた。こうした制度改革はなぜ可能だったのだろうか。本研究では、ポグントケ(Thomas Poguntke)とウェブ(Paul Webb)が提唱する「政治の大統領制化」論に依拠しつつ、研究課題の解明に取り組んだ。 第二次安倍内閣での企業統治改革の特徴は「大統領制化された政治」の下で展開され、首相が自らの功績顕示を目的として積極的に取り組んだことである。日本経済再生本部、産業競争力会議、これらの事務局を担当する内閣官房が司令塔の役割を果たしつつ、首相・官邸が主導する形で政策決定が行われた。 自由主義的改革は国家の役割の縮小を含意するが、果たしてそのように言い切れるだろうか。本研究では規制政策の分析を通じて、現実には、それと並行して国家の規制能力はむしろ強化されてきたことを明らかにした。1990年代、2000年代以降、競争政策の中核である独占禁止法は規制を厳格化する方向で数回改正がなされ、公正取引委員会のエンフォースメントも強化されてきた。自由主義的改革は国家の規制能力の強化を伴うものであり、国家の縮小を必ずしも意味しないのである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2019年度は本研究課題に関連する国際共同研究の実施のため在外研究を行った。渡航に伴う事前準備や事後の研究基盤の構築に相当の時間がかかった。これに加えて、本研究にかかわる学術書の刊行が延期され、研究成果を公表する機会が乏しかったことも理由として挙げられる。他方で、企業統治改革の事例研究については、今年度内に成果を公表できたので、一定の進捗はあった(なお同研究成果は前年度の報告書に記載済み)。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度も引き続き、事例研究を着実に進め、研究成果をまとめていく予定である。ただし、新型コロナウィルスのパンデミックによって、参加・報告を予定していた一部の国際学会がすでに中止・延期が決定されるなど、研究の推進に大きな支障が出ることが予想される。新型コロナウィルスに関する今後の見通しは現時点ではまったくついていない状況だが、これまで収集したデータ等を活用して、可能な限り研究を進め、成果を公表していく予定である。
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Causes of Carryover |
当初予定していた国際学術誌への論文投稿に伴う支出が発生しなかった一方、理論研究や事例研究をいっそう深めるために書籍購入等を増やした。次年度使用額が発生したが、これは国際学会への出席、学術誌への論文投稿を目的としたもので、研究計画をさらに進めるために必要なものである。次年度使用額も含めて着実に予算執行を行えるよう研究を進めていく。
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