2019 Fiscal Year Research-status Report
「政治的なもの」の理論の再構築:批判的営為の位置づけ
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17K03526
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
乙部 延剛 大阪大学, 法学研究科, 准教授 (50713476)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 政治的なもの |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、主に「政治的なものの政治理論」についてこれまで遂行してきた研究を取りまとめに取り組んだ。すなわち、「政治的なもの」という領野の性質に注目した際に、いかなる政治理論のあり方が導出されるかについて、これまでの研究で明確になったことを成果として取りまとめてきた。具体的には、未刊行ながらも、下記の3つの業績に目処をつけることができた。なお、(2)(3)については原稿を完成・提出済みである。 1) 乙部延剛「エートスの陶冶とは何か?」(『年報政治学』2019-II)では、「政治的なもの」の理論家がしばしば強調する「エートスの陶冶」について、それが心性の発展を強調するだけの議論ではなく、何よりも「政治的なもの」の発出を捉えるための議論であることを明らかにした。 2) 乙部延剛「政治理論の方法」(『よくわかる政治思想』所収、ミネルヴァ書房、2020年刊行予定)では、政治理論の諸潮流のスタイルや特徴を概観する中で、「政治的なもの」の政治理論の特徴についても明らかにした。 3) 乙部延剛「政治学ー政治科学と政治理論の間」(『アーレント読本』所収、法政大学出版局、2020年刊行予定)では、「政治的なもの」の主要な理論家のひとりであるハンナ・アーレントを取り上げ、アーレントの政治理論観の特徴と射程を論じた。すなわち、過去の思想家の伝統に依拠しつつも、それを固持するのでなく、むしろ、伝統を用いて過去や現在に対する新たな視点を提供するという、アーレントの政治理論観に、「政治的なもの」の理論のひとつの典型を見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
概要で記したように、いくつか研究結果を取りまとめつつあるが、他方、もともと計画していた国際学会での報告、海外の研究者との意見交換等についてはほぼ実施できず、インプット、アウトプット両面で十全ではなかった。 その理由は、家庭の止むを得ない事情によって、国外へ出張する十分な時間を確保することができなかったことにある。
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Strategy for Future Research Activity |
上で記した遅れがあったため、補助事業期間延長を申請し、認められた。国際学会での報告や海外研究者との意見交換を行うため、本年はすでに2つの国際学会(ECPRおよびAPSA)での報告に応募し、幸い両者とも採択済みである。両学会では研究発表を行い、フィードバックを得るだけではなく、必要な研究者とできれば面談し、研究へのフィードバックを得る予定である。 懸念されるのは、新型コロナウィルスによって再び海外渡航が困難になる可能性が増していることだが、ECPRについてはオンライン開催が決定しているので、研究発表(および発表へのフィードバック)は得ることができる見込みである。また、オンラインでのミーティングやワークショップの機会を積極的に求め、研究へのフィードバックを得るようにしたい。 これらの結果については最終的には日本語もしくは英語の論文等の形で刊行を目指す。
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Causes of Carryover |
もともと海外出張を予定し、そのための費用を予算に含めておいたところ、家庭の事情(育児)により、海外出張を実行することができなかった。 そのため、期間の延長を申請し、認められた。令和2年度についてはすでに国際学会に2つ応募し採択されるなど、これまで実施できなかった海外出張の準備を進めており、実施は遅れたものの、計画通り実行できる見通しである。
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