2018 Fiscal Year Research-status Report
The Irony of International Consumer Movement
Project/Area Number |
17K03527
|
Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
井上 拓也 茨城大学, 人文社会科学部, 教授 (70291284)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 消費者運動 / 消費者団体 / 消費者政策 / 利益団体 / 市民社会 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、国際消費者機構(CI)において、価格・品質など消費者の経済的利益よりも環境や労働などその社会的責任が重視されがちなこと、またそれが先進国よりも豊かではない途上国の消費者団体によって推進されがちなことという皮肉な状況を、消費者団体の2つのモデルの相違によって説明することである。 消費者団体は、①物質的便益を選択的誘因として大衆基盤の多数の会員を集める、先進国で主流の顧客消費者団体、および②非物質的便益を選択的誘因として意識の高い少数の会員を集める、北欧など一部の先進国や途上国で主流の市民消費者団体という、2つのモデルに区分できる。CIは、1960年に、①によって消費者の経済的利益を目的として設立され、現在でも主にそれらによって財政的に支えられている。しかしそこでは、約60年の間に、②が多数を占めるようになり、消費者の社会的責任が重視されるようになってきたということが、本研究の基本的な仮説である。 2018年度には、前年度に国内で実施した文献研究を踏まえ、2019年3月末にロンドンのCI本部を訪れ、資料収集とインタビューを実施した。その目的は、CIの会員名鑑を入手し60年間の会員団体の変遷を辿るとともに、大会資料や聞き取りを通じて上述の政策選好の変化を辿ることであった。このうち後者については、まだ印象論的なレベルではあるが検証できたことが一定の成果であった。しかし前者については、CI本部においてすら会員名鑑が保管されておらず、会員団体の変遷を部分的にしか辿ることはできなかった。したがって研究としては、まだ論文の執筆という段階に達しておらず、まずは暫定的な変遷の把握に基づき研究ノートを執筆している。 このような状況から、2018年度には本研究の直接的な成果となる原稿はなかった。しかし関連する成果として、イギリスの消費者団体に関する原稿を1本、共著である教科書の原稿を2本執筆している。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
CI本部での調査は実施できたが、予想外のことに同本部においてすら創設以降60年間の会員名鑑が保管されておらず、会員団体の正確な変遷をいまだに辿れていないことは、研究の遅れの大きな要因となっている。しかし逆に言えば、この変遷の正確な把握は世界的にどこでも行われていないので、実行できれば非常に大きな成果となると言えよう。またCI本部で、関係者にインタビューし、前述の基本的な仮説が妥当であるとの印象を持てたことは、一定の進展であったと考える。 以上のような状況から、会員団体の変遷の正確な把握に今後も努めつつ、まずは現状で把握できた暫定的な変遷についての研究ノートを執筆中である。
|
Strategy for Future Research Activity |
CIの60年間の会員団体の変遷の正確な把握は、時間をかけてでも実行したい。そこで2019年度は、CIの創設メンバーである5つの消費者団体、すなわちアメリカのコンシューマー・レポーツ(消費者同盟:CU)、オランダの消費者同盟(コンシュメンテボンド)、イギリスの消費者協会、ベルギーのテスト・アシャト、オーストラリアのチョイスにつき、早い時期の訪問調査を実施する。そこでの目的は、第一には、保管されていることが予想される、CIの会員名鑑の調査である。また第二は、現在までCIを財政的に支えているそれらの先進国の消費者団体から見た、途上国の団体が多数派を占めるようになったCIの現状についての聞き取りである。 2020年度には、マレーシアのCIアジア太平洋支部、およびチリの同ラテンアメリカ支部を訪問し、途上国の消費者団体から見たCIの現状につき聞き取り調査を実施する。また合わせて、CIにおいて途上国の団体が主流になったのに応じて、いわば消費者団体の先進国クラブとして結成された大西洋消費者対話のような他の国際組織での調査も実施する。その上で、最終的に研究の取りまとめを行っていきたい。
|
Causes of Carryover |
ロンドンのCI本部での訪問調査が、勤務先での業務などにより遅れてしまったこと、必要な資料の入手に困難を来していることから、その後の調査等に要する経費が未使用になった。したがって当該未使用額は、前述のように、2019年度におけるアメリカ、イギリス、オランダ、ベルギー、そして場合によってはオーストラリアの消費者団体の訪問調査に支出することになる。
|