2017 Fiscal Year Research-status Report
マルチ・レベル選挙制度下におけるイギリス政党政治の変容についての研究
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17K03528
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
近藤 康史 筑波大学, 人文社会系, 教授 (00323238)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | イギリス政治 / 比較政治 / 政党システム / 政党組織 / 二大政党制 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、研究期間の初年度として、まず理論枠組形成のための文献調査を行った。分権化が政党システム・政党組織に及ぼす効果や、またそれらの地域議会において比例代表制的な選挙制度が政党システムに及ぼす効果などについて、特に連邦国家における政党システム研究などにも視点を広げながら検討した。特に、マルチ・レベル選挙制度による選挙制度効果の「汚染」といった議論を中心として、理論枠組の検討を進めた。 その上で、イギリス政治の全体像の中にマルチ・レベル選挙制度の効果を位置づける作業を行った。近年のイギリス政治における多党化現象について、特に1999年以降、スコットランド議会やヨーロッパ議会選挙において比例代表制が導入されて以降、国政レベルにおける有効政党数も増加していることなど、マルチ・レベルな選挙制度の効果が表れていることが示唆されることについて解明した。ただし、2017年総選挙においては有効政党数が大幅に減少していることから、これらの現象が単に選挙制度の効果から説明できるかどうかについては、一定の留保が必要であるということも示しつつある。 またイギリス二大政党の政党組織について、特にその一体性の変化や党首のリーダーシップの観点から検討を行った。戦後初期においては少なかった下院における造反が、特に1990年代以降増加していることや、党首のリーダーシップが高まっていることなどを検討した上で、その現象が、執政ー議会関係における集権的変化とも連結しているという結論を得た。ただし、政党組織における中央ー地方関係においては、そのことが中央による介入と地方組織の自律性という点で、一定のジレンマを生み出しているということについても見通しを得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、本研究の初年度に当たるが、当初目標としていた(1)比較政治を含めた理論枠組形成のための文献調査、および(2)労働党の政党組織における変化を見るための資料調査について、下記のような進捗を得た。 (1)については、分権化や連邦化が政党システムや政党組織に与える影響についての観点から、単に既存政党だけでなく、地域政党の出現や台頭までを視野に入れた理論枠組を形成するための検討が進捗した。また、単に中央ー地方関係にとどまらず、イギリスの政党システム・政党組織を戦後イギリス政治の変容の中に位置づけ説明するための枠組の形成も進んだ。 (2)については、すでに収集済みの資料や文献を中心にして検討が進み、1990年代以降集権化が進行した労働党が、その後の分権化の進展の中で一定のジレンマ状況に直面していることについて、検討を進めることができた。 当初の予定では、保守党についても資料・文献収集や検討を進める予定であったが、この点についてはやや進捗状況が遅れている。とはいえ、上記二点においては目標以上の進捗を得たので、全体としてはおおむね順調に進展しているとするのが妥当であると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の基盤となる理論枠組形成や、マルチ・レベル選挙制度下における全体的な政党システム変化についての検討は進んでおり、今後は、労働党と保守党の両党について、主に政党組織や政党戦略の面から、個別的な検討を行っていくことが、主な課題となる。また、研究開始時には想定されていなかった2017年総選挙が行われたので、その過程や結果も踏まえた分析が新たに必要になっている。 まず労働党に関しては、これまで収集した資料や文献に基づきながら研究を継続的に進行させるが、特にコービン党首の登場、また2017年総選挙で善戦したという条件下において、政党内での政策形成の過程や地方組織との関係、また選挙を含めた政党戦略がどのように変化したのかについて、党首のリーダーシップや党内アクターとの関係といった政党組織的な側面から、分析を進める。 また保守党に関しては、当初の予定通り資料や文献の収集を進めつつ、EU国民投票以後、その一体性が回復したのかどうか、また2017年総選挙での過半数を得られなかったということを受けて、政党組織的にどのような変化が見られるのかについて検討する。特に、2017年総選挙においては、従来弱かったスコットランド地域での議席を伸ばしかことから、政党組織における中央ー地方関係にも何らかの変化が見られるのではないかという視点から、分析を進めることになるだろう。 また政党システム全体については、これまでの傾向から逆転して二大政党制への回帰とも呼べるような現象が起きていることに関し、選挙制度、投票行動、社会的な争点構造の変化などの観点から分析を進め、政党政治上の変化を浮かび上がらせる作業を行う。この点については、国内の学会等での口頭発表も予定している。
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Causes of Carryover |
(理由)平成29年度においては、資料収集・調査に伴う旅費として一定額を計上していたが、(1)2017年に想定外の総選挙が行われたこともあり、当初予定していたスケジュールが困難となったこと、(2)その理由もあり、一部海外調査先の変更を行ったが、日程調整が困難であったこと、(3)本年度の研究遂行に必要な資料については、国内機関などを通じて収集が進んでいたことから、資料収集・調査計画の一部を次年度以降に延期した。そのため、旅費の一部を次年度以降に繰り越したため、次年度使用額が発生した。 (使用計画)当初の予定では、平成30年度において、保守党を中心とした資料収集・調査を行うこととしていたが、2017年総選挙の実施などによって労働党についても新たな資料収集・調査が必要となっているため、今回の次年度使用分を加えることによって、労働党についてもより詳細な資料収集・調査を行うことが可能となり、そのための旅費として使用を計画している。その他に、比較政治理論や政党研究を中心として文献の収集を引き続き行い、分析枠組の一層の精緻化を図るとともに、それを踏まえたこれまで収集した資料をもとに分析し、国内を中心に口頭発表を行う計画である。また、収集した資料について、政治学を専門とする大学院生を雇用し、資料整理を行う点については、当初の予定通り進める。
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