2018 Fiscal Year Research-status Report
マルチ・レベル選挙制度下におけるイギリス政党政治の変容についての研究
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17K03528
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
近藤 康史 筑波大学, 人文社会系, 教授 (00323238)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | イギリス政治 / 比較政治 / 政党システム / 政党組織 / 二大政党制 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度は、昨年度行った理論枠組をベースにしながら、今年度においては特にHanspeter Kriesiらによって議論されている「経済的対立と文化的対立」への対立軸の二元化の視点を新たに付加し、現代イギリスの政党政治の変化について分析を進めた。 これらの点について、今年度は特に2016年EU国民投票及び2017年イギリス総選挙の結果を分析し、イギリスにおける政党政治の変化について検討した。EU離脱決定後初めての総選挙となった2017年選挙においては、得票率・議席率の両面において二大政党制への回帰とも取りうる結果が生じた。しかし2015年総選挙からの政党間における得票の移動や、各政党の政策的位置、また各政党の支持者の政策的位置を分析した結果、確かに保守党と労働党という既存の二大政党への投票の回帰は生じているものの、投票層は上記の二元的対立軸の中で流動的な形で再編されていることや、その二元的対立軸の中で、労働党が経済的対立軸をメインとする形で政策的位置を示す一方で、保守党の側は文化的対立軸に依拠する程度を高めており、すれ違う形での政党間対立が生じていることを示した。 また上記の「文化的対立」に関して、これまでの研究では「EU」や「分権化」との関わりを主に見てきたが、今年度は「移民・難民政策」にも焦点を当てた形で、その政党政治との関わりを分析した。その結果、保守党はもちろんのこと労働党においても、基本的には制限的な移民・難民政策が行われており、かつては大きな政党間対立の要素とはならなかったものの、特に2000年以降においては、労働党側で寛容な移民政策へのシフトとみられる状況も生じており、やはり文化的対立の軸がイギリスの政党政治において重視されつつあることを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の2年目にあたる今年度の課題は、昨年度行った理論枠組の検討や資料調査に基づき、イギリスの政党間競争の構図の変化や政党システムへの影響を検討することであった。これらの点に関し今年度は、上記の「研究業績の概要」にあるように、経済的対立と文化的対立との二元的対立軸の中での二大政党間の競争の構図の変化を明らかにし、その一端は2018年日本選挙学会にて口頭発表するなど、進捗している。 また、その中で「文化的対立軸」の重要性の高まりという、当初は十分に想定しなかった論点をも取り込み、解明を目指した。その内容は上記「研究業績の概要」にあるように移民・難民政策を中心としたものであるが、この論点を含む研究については論文という形で執筆が進んでおり、令和元年度に出版される分担著に収録される予定である。 これらの分析とも関連させつつ、政党組織の変化の分析についても、特に社会民主主義政党である労働党に関しては分析が進みつつあり、現在、その研究成果の発表に向け、論文を執筆中である。 また今年度においては、EU離脱後のイギリス政治の混乱により、政党関係者などにアポイントメントが取りづらい状況となり、海外調査が当初の予定通りには進まなかった面はあるが、国内も含めて昨年度より行なっている調査によって、今年度までの研究遂行に必要な資料に大きな支障はなく、その一部は上記の論文執筆などに利用が進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに行った理論枠組の形成と、政党間競争及び政党システムの変化の分析に基づきつつ、イギリスの政党の政党戦略や政党組織の変化について、最終的な結論を得るべく、検討を進める。 イギリスにおいては、EU離脱に伴う政治的混乱が続き、政党レベルにおいても状況はかなり流動的となっている。したがって、今年度には十分に行うことができなかった点も含め、海外調査を含む新たな資料収集・インタビューの実施を視野に入れ、イギリスの政党政治の現状の把握を更新するとともに、これまでの研究との整合性を図る。その場合、もちろん理論枠組の側の修正を迫られることも予想されるため、引き続き、比較政治、イギリス政治、政党研究等に関する文献調査も並行して進める。 これらの作業を通じて、来年度の終わりには、本研究の最終的な研究成果の全体像を明確化させていくとともに、その研究の意義を広くヨーロッパ政治・比較政治の観点からも明確化させるために、その成果の積極的な公開を図る。
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Causes of Carryover |
今年度は、EU離脱に向けたイギリス政治状の混乱にもより、イギリスの各政党におけるインタビュー調査に関して予約が取りにい状況となり、当初の予定のようには海外調査を行わなかった。そのため、旅費や資料整理のための人件費を中心として未使用額が生じた。これらは次年度使用額とし、海外調査を含めた資料収集のための旅費やその資料整理のための人件費、また理論枠組の修正のための文献調査費として用いる。
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