2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
17K03531
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
田中 拓道 一橋大学, 大学院社会学研究科, 教授 (20333586)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 福祉国家 / 自由選択 / ワークフェア / 排外主義 / 比較政治 |
Outline of Annual Research Achievements |
2017年度の研究計画は、(1)古いリスクと新しいリスクへの対応のバランスが、日本、フランス、ドイツ、スウェーデンでどのように取られたのかを検討し、(2)ワークフェア型改革と排外主義の関係について検討することであった。 (1)古いリスクと新しいリスクへの対応に関しては、特にスウェーデン、フランス、日本の2000年代の改革過程を検討した。スウェーデン、フランスでは与野党間で年金改革に一定の合意が形成され、新しいリスクへの対応に関しても、積極的労働市場政策への支出が持続していることで、ワークフェア型の改革とは一線を画していることが明らかとなった。一方日本では、トップダウン型の改革が与野党間の短期的支持を見込んだ競争を引き起こし、古いリスクと新しいリスクへの対応のバランスが取られなかったことを指摘した。日本に関しては、中国社会科学院に招聘されたシンポジウムで「福祉改革の実験場」を報告した。この原稿は2018年度に中国語に翻訳され、書籍の一部として出版される予定である。また日本の福祉改革の全体像については、小論文「社会保障の未来像」を『日本経済新聞』に発表した。この小文は英語、中国語にも翻訳されて公開された。 (2)排外主義に関しては、ポピュリズム、多文化主義、リベラル・ナショナリズムとの関係を明確化するための理論的検討を行った。多文化主義、リベラル・ナショナリズムが排外主義への対抗となりえないことを確認し、対話を重視するリベラリズムの潮流の中に、それとは異なる選択肢を見いだした。この成果は2018年度に『リベラルとは何か』(中公新書)の一部に組み込み、公刊する予定である。 (3)上記のほか、ヨーロッパのリベラルを代表するハーバーマスの福祉国家論を検討した論文を執筆した。この論文は2018年度に『ハーバーマスを読む』(ナカニシヤ出版)の中で公刊される予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2017年度の研究を通じて、先進諸国の中でも政党がトップダウン改革を進め、低所得層やマイノリティと中間層を戦略的に切り離すことで、中間層の支持を獲得しようとした国(イギリス)と、政党が低所得層やマイノリティと中間層とをつなぐ支持層再編を行おうとした国(スウェーデン、フランス)で、福祉改革の分岐が生じているという仮説を得ることができた。今後はこの仮説を軸として検討を進めるとともに、日本でトップダウン改革が中長期的な福祉改革をもたらさなかったことを説明する。 現在の課題としては、ドイツの位置づけを明確化することが挙げられる。ドイツではトップダウン改革による福祉縮減が進展したという評価もあるが、家族政策などで与野党の枠を超えた政策転換が進んだという評価もある。シュレーダー改革以降の政治過程を詳しく検討する必要がある。次に、排外主義と福祉政策との関連をさらに検討することも必要である。
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Strategy for Future Research Activity |
2018年度では、(1)古いリスクと新しいリスクとの対応のバランス、(2)排外主義への対応という二点について行った比較研究をまとめ、『リベラルとは何か』(中公新書)として出版することを目指す。 次に2000年代の排外主義と福祉改革の関連について、フランス、スウェーデン、ドイツにイギリスを加えた比較研究を進める。
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Causes of Carryover |
残額は端数であり、2018年度も当初の計画通りに予算を執行する予定である。
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