2018 Fiscal Year Research-status Report
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17K03531
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
田中 拓道 一橋大学, 大学院社会学研究科, 教授 (20333586)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 福祉国家 / 自由選択 / ワークフェア / 排外主義 / 比較政治 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度の研究計画は、(1)スウェーデン、ドイツ、フランス、日本の雇用・福祉改革を「古いリスク」への対応と「新しいリスク」への対応に分けて考察したうえで、(2)福祉改革と排外主義の相関関係について比較検討することであった。 (1)各国の福祉改革に関しては、古いリスクと新しいリスクへの対応に競合が生じる条件について検討を進めた。これらの競合を考察するにあたっては、D. RuedaやB. Palierらの唱える「インサイダー/アウトサイダーの二分化」論を参照することが有益であることが分かった。二分化論は、高齢者向け政策と現役世代向けの違いだけでなく、労働市場の二分化を重視する。現役世代向けの支援拡大と労働市場の流動化が並行して起きることで二分化が抑制される。以上の知見は、年金改革について比較政治学の観点から考察した『法律時報』掲載の論文、フランスの最低生活保障改革を扱った論文(印刷中、2019年に公刊予定)、2017年の中国での国際シンポジウムをもとにした中国語の翻訳論文(2018年に中国で公刊)および英語論文(2019年度に公刊予定)にて公表した。 (2)福祉改革と排外主義の関係に関しては、主に先行研究の検討により、選別主義的改革が排外主義を強化するという仮説を新たに得た。選別主義とは政策の受益層を狭い社会階層に絞り込むことを指す。多文化主義に基づく福祉・雇用政策、ワークフェア改革はともに選別主義的性格を持ち、排外主義を強化する可能性がある。しかしこの仮説は、2000年代のスウェーデンやドイツにはある程度当てはまるが、フランスには当てはまらないため、別の変数も必要である。以上の知見は執筆中の単著『リベラルとは何か』(中公新書)に組み込み、2019年度中に公表される予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
国ごとの排外主義の違いを比較し、多文化主義の限界、ワークフェア政策の限界を指摘することは、これまでの研究で行える見通しが立った。これらの知見は、『リベラルとは何か』(中公新書)、および『福祉国家の基礎理論』(岩波書店)という2冊の単著において2019年度および2020年度をめどに公表する予定である。 ただし一国内の福祉改革の進展が、排外主義の高まりや鎮静化にいかなる影響を与えたのかについては、各国の事例比較からは明確な相関関係を得られていない。ほかに多くの変数が介在すると考えられるからである。この点を明らかにするため、今後はフランス一国に絞って福祉改革と排外主義の関連を考察することが必要だと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
日本に関しては、古いリスクへの対応と新しいリスクへの対応の競合が最も先鋭にみられる事例であり、「二分化」に関する研究動向に照らしても重要な事例と位置づけられる。ただし日本をヨーロッパ諸国と比較するのではなく、後発国や東アジア諸国と比較すべきだと主張する研究動向もある。研究代表者は2019年度前半にカナダのトロント大学に滞在し、東アジア福祉レジーム研究を主導するIto Peng教授のもとで在外研究を行うため、この研究動向も視野に入れつつ2000年代の日本の雇用・福祉改革を検討する。2019年度後半は、「二分化」の国際比較を代表するオックスフォード大学のDavid Rueda教授のもとで在外研究を行うため、二分化論に関する国際的な研究の進展を踏まえ、4か国の比較研究を行う予定である。
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Causes of Carryover |
残額は端数であり、2019年度も当初の計画通りに予算を執行する予定である。
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