2019 Fiscal Year Research-status Report
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17K03531
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
田中 拓道 一橋大学, 大学院社会学研究科, 教授 (20333586)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 福祉国家 / 自由選択 / ワークフェア / 排外主義 / 比較政治 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度の研究計画は、(1)2000年代の日本の雇用・福祉政策を自由選択型への転換の失敗という観点から検討し、(2)研究の総括を行うことであった。なお2019年4月~8月にカナダのトロント大学、2019年9月~2020年3月にイギリスのオックスフォード大学で在外研究を行ったことにより、下記のように若干の研究計画の変更があった。 (1)2000年代の日本の改革については、トロント大学において、東アジア福祉国家論を専門とする研究者のもとで研究を行ったため、韓国、台湾との比較を行った。「古い社会的リスク」から「新しい社会的リスク」への対応の転換が進むかどうかは、民主化とポスト工業化のタイミングに規定されるという仮説を提起した。民主化が早く、古い社会的リスクに対応する政策が蓄積された後にポスト工業化に直面した日本では、新旧の社会的リスクへの対応にトレードオフが生じ、新しい社会的リスクへの対応が遅れた。以上の知見は2019年10月にパリで行われた国際シンポジウムにおいて英語で報告した後、英語論文としてまとめた(国際雑誌に投稿準備中)。 さらにオックスフォード大学では労働市場の二分化への対応に関する日本、フランス、ドイツの比較研究に従事した。 (2)研究の総括については、トロント大学で東アジア福祉国家の比較に従事したため、半年間延期することとした。研究の総括にあたるオックスフォード大学での研究成果は、"Labor Market Dualization and Reconstruction of Social Democracy"という英語論文にまとめた。その一部は2020年6月の比較政治学会で英語ペーパーとして公表する。さらに2020年7月の世界政治学会(IPSA)で報告予定だったが、新型コロナウィルス感染症の流行のため、IPSAは一年延期となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2019年4月から8月までトロント大学で在外研究に従事した。受け入れ教員との共同研究の都合上、この期間は東アジア福祉国家の比較研究を行った。そのため本研究の完成を半年ほど遅らせ、2020年度に延長することとした。本研究全体の成果は、2020年度の日本比較政治学会で報告する。また2020年7月の世界政治学会でも報告する予定であったが、新型コロナウィルス感染症の流行のため、IPSAは1年延期となった。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は、これまでの研究を総括し、研究成果として公表する。 第一に、2021年度に延期となった世界政治学会の報告では、労働市場でのインサイダーとアウトサイダーの二分化を乗り越える政治的条件を明らかにする。インサイダーの中でも個人のライフスタイルや就労スタイルの自由な選択を重視する人々(社会文化職、高度サービス職に就く人々)は、画一的な保護ではなく、個人の選択に合わせた社会的投資と労働市場政策を選好するという点で、アウトサイダーと政治的に連携する可能性を持つ。左派政権が支持層の再編に成功できたか否かが、これらの政策の導入の成否を決める。以上の仮説を、日欧の社会調査(ESS、JGSS)データと、日本、フランス、ドイツの2000年代の左派政権の事例比較によって検証する。 第二に、排外主義の抑制に関しては、雇用・福祉制度が包摂的で普遍主義的であるほど排外主義を抑制しやすいという仮説を、Political Data Yearbook、Comparative Welfare Entitlement Databaseなどのデータを用いて検証する。 以上の知見は英語論文にまとめて国際雑誌に投稿するほか、単著『リベラルとは何か』(中公新書)にも組み込み、2020年度中に公刊する予定である。
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Causes of Carryover |
2019年4月から8月までトロント大学で在外研究に従事した。受け入れ教員との共同研究の都合上、この期間は東アジア福祉国家の比較研究を行った。そのため本研究の完成を半年ほど遅らせ、2020年度に延長することとした。2020年度には本研究全体の総括を行い、英語論文の執筆、校正、投稿、単著の刊行などを行う予定である。新型コロナウィルス感染症の状況次第であるが、可能であれば、2019年度に予定していて中止となったフランスでの調査も行いたい。
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