2020 Fiscal Year Research-status Report
立憲的政治制度と政府調整能力が所得再分配に及ぼす影響に関する比較政治学的研究
Project/Area Number |
17K03532
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
桐谷 仁 静岡大学, 人文社会科学部, 教授 (30225106)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 社会協定 / 政策協調 / コーポラティズム / 所得格差 / 所得再分配 / メタガバナンス |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、「政策協調から社会協定へ?:コーポラティズムの新たな展開」の続編の論考を公刊した。昨年度の社会協定の概念化と指標化を踏まえて、本年度のこの論考では、本研究課題の「政府調整能力」を示す概念として、従来の政策協調の概念は、どのように捉え直されるべきかという問題設定をおこない議論を展開した。 第一に、政策協調の概念とその指標化にあたって、アクター=行動の次元と制度=存在の次元という二つの次元を区別しその双方からアプローチを試みた。すなわち、前者は、どのようなアクターがどのようなかたちで政策過程に関与・参加するのかという行為主体=行動に関わっており、後者は、アクターはどのような役割=代表性をもち、どこ(=場所)で、どのように相互行為を展開するのかという舞台=領域=存在に着目した。 第二に、政策協調には狭義と広義があるが、労使の二者間関係を当事者間の地平を超えたメタレベルによる統轄(メタ・ガバナンス)が展開されているという狭義の観点を重視した。そのうえで、政府の仲裁裁定機関の存在や、主要なルールとしての「団体交渉制度」の法制化、さらには副次的な制度的ルールとして、団体協約の法的拘束力や法的拡張性や平和義務などの「法的ガバナビリティ」を取り上げた。 第三に、一九六〇年-二〇一五年までの主要OECD一八ヶ国を対象にして、政策協調の通時的動向を観察したところ、六〇年代の高成長期に上昇傾向をみせた後に、第一次石油危機前後の七五年期と、ネオ・リベラルへの転換期の八五年期の二つの時期にピークがあり、それ以降は九五年期まで低落傾向にあること、そして九五年期以降はほぼ横ばいで推移していることを発見した。これは、前章の社会協定の軌道と比べると、ピークが二つある点は共通しているが、社会協定の場合の頂点期であった九五年前後が、逆に政策協調の場合には底辺期にあたっていることを示す結果でもあった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本年度は、各種の報告書や統計データの収集とその読解・分析につとめたが、その過程でEUライブラリーや欧州労働研究所(ETUI)などでのさらなる文献・資料調査や、本研究の質的側面の向上をめざすための労働省等の関係省庁や関係労組にインタビュー調査をする計画が、このコロナ禍のために実現できなかったので、その面での研究が進展しなかったことが、遅れて主たる理由である。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度(令和3年度)は、第一に、本年度(令和2年度)に実施できなかったなEUライブラリーや欧州労働研究所(ETUI)における文献・資料調査をおこなうとともに、各種の報告書や統計データの収集・読解・分析につとめる。またその過程で、事例研究のための仲介等について相談や依頼をし、それを通じて労働省等の関係省庁や関係労組にインタビュー調査をおこない、研究の質的側面の向上をめざす予定である。 第二に、本年度(令和2年度)と同様に、OECDやILO等の国際機関が刊行しているデータ類を収集し、その進捗状況に応じて、「研究補助」者の助力を得て「データの入力・整理」をおこない、購入したデータや統計解析ソフトを活用しながら、比較分析の方法を探求し「データの解析」を踏まえて、その成果を論文として公刊するつもりである。 第三に、これまで探求してきた社会協定や政策協調の政治制度変数を説明変数とし、そして政府の所得分配政策の諸指標を被説明変数として、経験的な比較分析を試みるつもりである。そのためにも、「研究補助」者の助力も得て「データの入力・整理」をおこない定量的データを精緻化するとともに、適切な「時系列-横断的」「通時的・共時的」な比較分析の方法を探求する。そして、その方法を用いた成果を本研究の最終的な論文として公刊したい。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じたのは、コロナ禍のために、予定していた調査等ができなかったことが主たる理由である。 そこで本年度(令和3年度)は、延期した調査のための旅費と資料代に充てる予定である。
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Research Products
(1 results)