2019 Fiscal Year Research-status Report
近代日本の都市選出兼職議員(市会と衆議院又は府県会)の研究
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17K03542
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
森邊 成一 広島大学, 社会科学研究科, 教授 (50210183)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 兼職議員 / 市会議員 / 衆議院議員 / 府県会議員 / 市制中三市特例 / 経済三部制 |
Outline of Annual Research Achievements |
市会議員と衆議院又は府県会議員との兼職議員を調査するため、明治以降につき、それら三種の議員につき、網羅的なリストの存在状況を調べてきた。その結果、明治期に市制施行の64市の内、各種議員の当選時期在任期間等のデータが収集可能なものは、おおよそ13市にとどまることが分かった。 これと並行しつつ、18年度後半から、各種議員のリストの存する市について、本格的な集計に着手した。集計作業が完結したのは、名古屋、広島、東京、大阪などの一部の市に過ぎない。しかし、市制中三市特例により、市長や市庁舎をおかず、知事および府庁職員をもって市行政を執行せしめた東京大阪京都については、興味深い事実が判明している。明治22年の最初の市会議員選挙の当選者は、東京府では60名中29名が府会議員との兼職であり、その百分比は48.3%に及ぶ。同じく京都では35.7%、大阪でも31.3%にのぼり、3年毎の市会議員の改選で、3府3市とも20%超から10%台に低下するものの、初期の市会の構成員は、府会議員との兼職者が著しく多いことが分かった。市行政が府行政と未分化であることに対応して、議会もまた未分化ということであろうか。 衆議院議員との兼職では、東京では10名前後の代議士中、常に数名が市会議員との兼職者であり続けたのに対して、大阪では明治25~36年の7度の総選挙で兼職者が0であり、東京大阪間の距離・移動時間が兼職の障害となっていたことが推察される。大正後期から昭和にかけての政党政治期では、東京大阪とも兼職議員が20%から40%を占め、比率は上昇している。特に昭和3年に大勝した民政党の議員に兼職者が多いのが特徴である。その後、戦時体制になると代議士との兼職者は減るものの、府会議員との兼職者は増加に転じる。選挙粛清等の制約の下で、人的動員も進み、地方議員のなり手不足があったのかもしれない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
市会議員のリストについて、想定したほど各『市会史』等が網羅的な市会議員リストを掲載しているわけではなく、同様に『府県会史』等の記述においても、議員についての網羅的リストを完備しているわけでもなく、その両者を集めて突き合わせることに困難を生じ、リストの探索、閲覧、複写にも時間がとられてしまった。 また、集計作業についても、衆議院・府県会・市会議員各選挙の施行日に統一がないので、兼職議員の在職期間のどの時点で、兼職をカウントするか、試行錯誤が続いている。しかも、府県会や市会では、明治末ごろまで半数改選の制度があり、さらに明治期の議員には中途辞職者が多く、集計作業が煩雑なものとなっている。そのため、機械的な作業手順に落とし込むことが出来ず、大学院生等の研究補助者に作業を委託することも困難になっている。また、京都市などの例外を除いて、明治大正初期の3級選挙制度に基づく、級別当選者のリストも不足しており、様々な市会史などの通史の中にある記述やデータを集めようとしたが、全ての選挙回次について、集めることが困難で、労力をかけたが成果が出なかった。一般的には、どの等級に兼職者が多いかを広く確定することは困難である。 さらに、衆議院議員を除いては、政党会派への所属を確定することも、特に市会議員においては、困難を伴う。新聞報道などを基に、大正期からは、府県会議員のレベルでは、ある程度たどれるが、本格的な調査には着手できていない。 また、2020年の3月には、新型コロナウィルスの感染拡大により、国立国会図書館等の文書館が臨時休館となり、また東京関西などへの旅行も自粛となり、資料調査を実施することが出来なかった。こうしたことから、研究は遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、(1)先ず東京・京都・大阪の三府三市の兼職議員について、残った京都の一部の集計を進め完成させる。それを踏まえ、他の都市との比較を行い、市制中三市特例と府・市兼職議員の多さとの間に関連があるかどうか検討する。この点、兼職議員の活動を知るには、市会史の中の市会の議事についての記録についても、調査する。さらに、(2)横浜・名古屋・神戸・広島の地方三部経済制の実施府県・市の比較を行い、兼職議員が、府県会内の区(市)部会において、郡部会に対し、市部の利害を主張する際に、府会議員であるとともに市会議員であることに何らかの意義があったのか、府県会の議事などの検討を進めて、検討することとしたい。 また、(3)個々の議員の社会的属性を確認する作業に努め、『全国資産家地主資料集成』などに記載される土地所有や開始役員などの突き合わせにより、都市選出兼職議員の社会的属性について、何らかの共通する特徴を見つけることができればと思う。また、著名な議員については、伝記を渉猟し、兼職者としてそれぞれの議員活動の実態に迫ることが出来ればと思う。そのためには、地方図書館などが所蔵する地方議員の伝記類についても調査が必要であり、国立国会図書館において、集約的に所蔵の確認と閲覧ができれば、作業の進捗が見込まれるので、新型コロナウィルス禍の収束による同館の再開と通常サービスの提供に期待したい。(4)さらに余力があれば、地方中小都市の集計にも着手して、全国的動向の一端に迫りたいと考えている。
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Causes of Carryover |
2019年度に、次年度使用額が生じた主な理由は、新型コロナウィルスの感染拡大により、勤務大学の業務の少ない3月期に、国立国会図書館など、文書館等が臨時休館となったこと。また、東京や大阪京都などの感染拡大により、そうした都市への旅行自体が自粛となったことから、出張旅費を使っての調査が、中止を余儀なくされ、旅費の消化ができなくなったからである。また、出張に伴う文献複写費の支出もなくなったことから、次年度使用額はさらに膨らんでしまった。さらに、予定していた文献(図書)の購入が、あるものは、予定した価格よりも高価であったことや、在庫がなくなった例も生じて、物品費においても次年度使用額が生じてしまった。 2020年度においては、文献(図書)購入を早期に進めて、物品費の有効活用に努めるとともに、兼職議員数の集計作業の定型化をさらに進めて、研究補助者への作業の委託を進め、謝金の支出を有効に行いたい。ただ、いわゆるコロナ禍の収束が夏期以降にずれこみ、夏期休業中も調査旅行に出られなくなると、旅費の支出が困難となり、また、研究それ自体も、遠隔授業の準備などにより、遅延が出る可能性もあり、補助事業期間延長申請を行う必要に迫られる懸念もある。
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