2017 Fiscal Year Research-status Report
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17K03560
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
信夫 隆司 日本大学, 法学部, 教授 (00196411)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 日米密約 / 事前協議制度 / 小笠原返還 / 核持ち込み / 非核三原則 / 佐藤栄作 / 三木武夫 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度は、平成29年7月31日から8月6日、10月30日から11月5日、平成30年2月26日から3月4日、3月26日から4月1日の4回にわたり、米国ワシントンDC郊外のカレッジ・パークにあるアメリカ国立公文書館を訪れ、資料収集にあたった。収集した資料は、日米密約に関連する、沖縄返還、米軍基地権、1952年の行政協定締結、行政協定第17条の改定、米軍の刑事裁判権(オランダ、フィリピン、ドイツ等)に関する文書である。現在、これら文書の分析を進めているところである。 研究実績として、「小笠原返還における核持ち込み問題」と題する論考を発表した。このテーマについては、従来、返還後の小笠原に核を持ち込む密約が日米間で交わされたのか否かをめぐり、議論があった。小笠原核持ち込み問題は、返還後の沖縄への核持ち込み問題とも密接に関連し、我が国における核持ち込み問題に重要な影響を及ぼした。 これまで、返還後の小笠原へ核を持ち込む密約が日米間に存在していたのか否かについてはあいまいな部分が存在していた。この問題は、1968年1月、当時の佐藤栄作総理が国会での所信表明演説で、いわゆる「非核三原則」を明示したことによってクローズアップされた。もし非核三原則、とりわけ、「核を持ち込ませず」がそのまま適用されれば、たとえアメリカ側から小笠原への核持ち込みの事前協議の申し出がなされたとしても、日本政府は「ノー」と答えるしかない状況にあったからである。 この問題に日本側で対応したのは、当時の三木武夫外務大臣である。今回、明治大学が所蔵する三木文書を参照できたことによって、当時の状況がよりいっそう明確になった。それによれば、三木外務大臣は、非核三原則を厳格に適用しようとし、もしアメリカ側から事前協議の申し出あったとしても、事前協議に応ずるとしか言えないと述べるのが精一杯であることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成29年度の研究においては、小笠原返還と核持ち込み問題について、十分な成果を挙げることができた。ただ、アメリカ国立公文書館で収集した資料の分析は、現在、その途上にある。とくに、今日の問題ともつながり、あるいは、これまで懸案となってきた問題として、米軍関係者が駐留する国で犯罪をおかした場合、その裁判権は、派遣国あるいは受入国のいずれにあるのかが挙げられる。米軍関係者によるいわゆる刑事裁判権の問題である。 日米行政協定第17条の改定をめぐり、津田實法務省総務課長が、「私は、日本国当局の方針として、日本国にとつて実質的に重要であると考えられる事件を除き、通常、合衆国軍隊の構成員若しくは軍属又はそれらの家族で合衆国の軍法に服するものに対し裁判権を行使する第一次の権利を行使する意図を有しない旨陳述することができる。」とアメリカ側に伝えた。つまり、日本側は、実質的に重要な事件を除き、裁判権を行使するつもりがない旨を非公表文書でアメリカ側に一方的に表明したのである。津田総務課長による一方的な表明という方法がとられているものの、その内容ならびに方法は、日米間で十分に協議がおこなわれ、あきらかに密約(刑事裁判権密約)といってよい。 その後、NATO諸国のなかでも、1954年8月、オランダがとくに重要だと決定する事件を除き、裁判権を放棄するにいたり、関連文書は公表された。このような経緯を考えると、日米の刑事裁判権密約は、その後のNATO諸国の刑事裁判権放棄の嚆矢をなしており、刑事裁判権問題を総合的に検討する必要があるという新たな課題が登場したといえる。つまり、刑事裁判権密約は、たんに日米間の密約にとどまらず、NATO諸国やその他の国にも影響を及ぼした可能性がある。
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Strategy for Future Research Activity |
すでに、【現在までの進捗状況】で明らかにしたように、刑事裁判権問題について、日米間にかぎらず、NATO諸国あるいはそれ以外の国々における問題も、総合的に洗い出す必要が生じた。日米間の刑事裁判権密約にとどまらず、刑事裁判権問題は、米軍が駐留するところではどこでも生じうる可能性があり、包括的に問題点を明らかにしなければならない。したがって、以下のように研究を推進していく予定である。 第一に、刑事裁判権に関する交渉経緯を示した文書を広く収集する。これら文書の収集は、アメリカ国立公文書館、あるいは、関連の大統領図書館でのリサーチによって、かなりの程度、可能であると考えられる。そこで、平成30年度も、引き続き、公文書館ならびに大統領図書館を訪れ、刑事裁判権に関する資料収集にあたりたい。 第二に、それら資料の分析をとおし、刑事裁判権問題の全体像を描き出す。とくに、現時点で、考察の対象と考えているのは、米比軍事基地協定、米蘭協定の締結、それに、米独NATO協定補足協定の締結である。それらの交渉過程を、可能なかぎり、明らかにしたい。これにより、日米の刑事裁判権の問題に、あらたな視点を取り込み、かつ、包括的な分析が可能になると思われる。 第三に、たんに各国の刑事裁判権に関する資料の収集・分析にとどまらず、日米間の刑事裁判権に関して、なんらかの政策的な示唆を与えたい。これまでも、我が国における刑事裁判権について、その運用の改善はおこなわれているものの、抜本的な問題解決にはいたっていない。そこで、他国の状況も参照し、今後の刑事裁判権のあり方について、提言をおこなえるような研究をおこないたい。
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Causes of Carryover |
平成29年度は、ワシントンDC郊外のカレッジ・パークにあるアメリカ国立公文書館を4回訪れた。さいわい、比較的閑散な時期に訪れた場合もあり、飛行機代および宿泊代が、当初、予定していたよりも少なく済んだ。これが次年度使用額が生じた理由である。 次年度使用額については、平成30年度も引き続き、アメリカ国立公文書館等でリサーチをする必要があり、その費用にあてたい。
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Research Products
(1 results)