2017 Fiscal Year Research-status Report
イギリスのEU国民投票とイングランド・ナショナリズムの政治化に関する研究
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17K03569
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
力久 昌幸 同志社大学, 法学部, 教授 (90264994)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ナショナリズム / EU離脱 / イングランド |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,イギリスのEU国民投票を主な事例として取り上げて,イングランド・ナショナリズムの政治化によってEU離脱派のキャンペーンにどのような特色がもたらされたのか,そして,EU離脱決定後のイギリスの政党政治において主要政党の戦略的行動にどのような変化がもたらされたのか,という点について明らかにすることを目的としている。 平成29年度の研究においては,本研究にとって重要な位置を占める概念であるナショナリズム,ナショナル・アイデンティティ,欧州統合,権限移譲改革に関する理論・事例研究を取り扱った文献・論文を収集したうえで,その内容に関する分類・整理を行った。 上記のような本研究に関連する文献の収集・整理に加えて,本年度はイギリスのロンドンとカーディフを訪問し,上院議員,下院議員,ウェールズ議会議員,そして,EU離脱問題に関わる運動団体に対して聞き取り調査を行った。こうした聞き取り調査を通じて,EU国民投票およびその後のEU離脱をめぐる政治過程とイングランド・ナショナリズムの政治化との関係について,一定程度理解を深めることができた。また,カーディフ訪問を通じて,イングランド・ナショナリズムの比較対象として,ウェールズ・ナショナリズムについて一定の知見を得たことは,本研究にとって重要な,多民族国家イギリスを構成する各ネイションの間の相互関係を理解するうえで意味があったものと思われる。 なお,平成30年度にはスコットランドを訪問することを考えているが,それにより,イングランド・ナショナリズムとスコットランド・ナショナリズム,そして,平成29年度に聞き取り調査を行ったウェールズ・ナショナリズムの異同について,さらに理解を深めることができるものと期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度の研究においては,本研究に関連する主要な理論・事例研究を取り扱った文献・論文の収集・整理をおおむね順調に進めることができたので,本研究が対象とする分野に関する先行研究の知見を批判的に検討したうえで,本研究の事例分析に適用する分析枠組の構築に向けて着実な前進をすることになったと考えている。 本研究を進展させるうえで特に重要であると思われるのが,2011年から継続して行われている「イングランドの将来に関する調査(Future of England Survey)」にもとづく調査結果をまとめた調査報告書,および,調査にあたった研究者たちが公表してきた論文である。EU国民投票に限らず,イギリス政治の主要問題の検討にあたっては,イギリス全体を分析単位として取り上げることが多く,イギリスを構成する各ネイションを分析単位として取り上げる場合も,スコットランド,ウェールズ,北アイルランドを対象とする研究は一定程度見られるものの,イングランドを一つの分析単位として検討する研究は必ずしも多くない。このようにイングランドの政治に関する研究が不十分な状況を是正するために開始された「イングランドの将来に関する調査」について,その調査データや分析内容に関する資料を平成29年度にかなり集めることができたことは,平成30年度以降の本研究の進展にとって大きなプラス材料になったと思われる。 なお,平成29年度の研究においては,ロンドンおよびカーディフにおける研究調査をおおむね成功裏に実施することができた。特に,カーディフでは「イングランドの将来に関する調査」の研究チームにおいて,その中心メンバーの一人であるリチャード・ウィン・ジョーンズ教授との間で,イングランド・ナショナリズムに関する意味のある意見交換をすることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度以降も,引き続き国内における文献・資料収集を継続しつつ,イングランドに加えてスコットランドやウェールズなどでの海外研究調査を行うことにより,本研究のさらなる深化を図って,当初の予定通り最終年度である平成31年度までに本研究を完成させることをめざす。 なお,平成29年度の研究実績からすると,平成30年度以降の研究計画の遂行にあたって変更の必要や特段の困難が発生することは想定していないが,聞き取り調査を実施するうえでキーパーソンの特定,および,調査依頼について,ある程度時間的余裕をもって行うことにより,調査をさらに充実させることができるように思われる。 本研究のいっそうの進展を図るうえで,「イングランドの将来に関する調査」に携わっている研究チームとの関わりが大きな意味を持つものと思われる。その点で,平成29年度にウィン・ジョーンズ教授との意見交換を行ったことには意義があったとすることができる。平成30年度以降も,エディンバラ大学のチャーリー・ジェフリー教授など「イングランドの将来に関する調査」の中心メンバーとの意見交換を実現したいと考えている。
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Causes of Carryover |
平成29年度には,ある程度の期間をとって海外研究調査を行うために,可能であれば授業期間外の9月と3月の2回,そうでなければ,3月にかなりの期間,イギリスを訪問することを考えていたが,本務校での学内行政業務などの都合により実現できなかった。その結果,3月に2週間弱ほどかけてロンドンとカーディフでインタビューなどを実施したが,想定していたよりも期間がやや短くなったことから,旅費支出が当初計上していた金額よりもやや低い金額となったことで,一定程度次年度使用額が生じることとなった。 平成30年度には,平成29年度から繰り越した金額を加えて,ある程度期間を取った海外研究調査を実施することを計画している。
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Research Products
(2 results)