2018 Fiscal Year Research-status Report
イギリスのEU国民投票とイングランド・ナショナリズムの政治化に関する研究
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17K03569
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
力久 昌幸 同志社大学, 法学部, 教授 (90264994)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ナショナリズム / EU離脱 / イングランド / ナショナル・アイデンティティ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,イギリスのEU国民投票を主な事例として取り上げて,イングランド・ナショナリズムの政治化によってEU離脱派のキャンペーンにどのような特色がもたらされたのか,そして,EU離脱決定後のイギリスの政党政治において主要政党の戦略的行動にどのような変化がもたらされたのか,という点について明らかにすることを目的としている。 平成30年度の研究においては,前年度に引き続いてナショナリズム,ナショナル・アイデンティティ,欧州統合,権限移譲改革に関する理論・事例研究に関する分類・整理・検討を行った。また,EU国民投票の事例をもとにしたイングランド・ナショナリズムの政治化と主要政党の戦略的行動の変化に関する調査と分析を行うために,イギリスのロンドンとエディンバラを訪問し,二大政党の下院議員およびスコットランド議会議員に対して聞き取り調査を行った。こうした聞き取り調査を通じて,EU国民投票およびその後のEU離脱をめぐる政治過程とイングランド・ナショナリズムの政治化との関係について,理解を深めることができたと思われる。特に,イギリスの二大政党である保守党と労働党において,2014年のスコットランド分離独立住民投票および2016年のEU国民投票を契機として,それまで看過されてきたイングランドを独自の政治的共同体として捉え,増大しつつあるイングランド・アイデンティティに対応する動きが見られることを確認した。また,前年度のカーディフ訪問に加えて今年度はエディンバラ訪問を行った。イングランド・ナショナリズムの比較対象として,スコットランド・ナショナリズムについて一定の知見を得たことは,多民族国家イギリスを構成する各ネイションのナショナリズムの類似点と相違点を理解するうえで意味があったものと思われる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成30年度の研究においては,昨年度に引き続き本研究に関連する主要な理論・事例研究を取り扱った文献・論文の収集・整理・検討を,おおむね順調に進展させることができた。本研究の事例分析に適用する分析枠組を構築するうえで重要と思われる,イギリスのEU離脱問題とイングランド・ナショナリズムの関係について,イングリッシュ(イングランド人)・アイデンティティとブリティッシュ(イギリス人)・アイデンティティの複雑な結びつきや,イングランド内部での地理的,階層的,世代的相違や対立などに関する先行研究の知見について理解を深めることができた。また,本年度も前年度と同様に年度末にイギリスにおいて研究調査を実施したが,2019年3月29日に設定されていたEU離脱期限が迫る中で,下院議員やスコットランド議会議員から,EU離脱とイングランド・ナショナリズム,スコットランド・ナショナリズムの関係について,それぞれの見解を聞く機会を得たことは,EU離脱問題とナショナリズムの相互作用の解明をめざす本研究を進展させるうえで大きな意味があったものと思われる。 さらに,前年度はカーディフを訪問し,「イングランドの将来に関する調査」の中心人物の一人であるリチャード・ウィン・ジョーンズ教授との間で,イングランド・ナショナリズムについて意見交換を行ったが,今年度も同調査で重要な役割を果たしているウィンチェスター大学のジョン・デナム教授と意見交換を行う貴重な機会を得ることができた。特に,イングランドにおけるアイデンティティ政治の重要性が高まる中で,保守党と比べるとこれまでイングランド問題に対する配慮が十分とはいえなかった労働党の対応に注目すべきとするデナム教授の主張は,本研究の問題意識と共通するところから,本研究の意義を再確認することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成31年度については,前半は引き続き本研究に関連する文献・資料の収集・整理・検討を継続しつつ,イングランドを中心とする最終的な海外研究調査を行うことにより,本研究の完成に向けてさらなる研究の深化をめざす。そのうえで,平成31年度の後半については,本研究の中心的な研究課題であるイングランド・ナショナリズムの政治化と主要政党の戦略的行動の変化に関する総合的な考察を行い,当初の予定通り平成31年度末までに本研究を完成させることにしたい。 なお,本研究のこれまでの研究実績からすると,平成30年度以降の研究計画の遂行にあたって変更の必要や特段の困難が発生することは想定していないが,平成31年度前半に予定している聞き取り調査を実施するうえでキーパーソンの特定,および,調査依頼についてある程度時間的余裕をもって行うことにより,調査をさらに充実させることができるように思われる。 本研究のいっそうの進展を図るうえで,「イングランドの将来に関する調査」に携わっている研究チームとの関わりが大きな意味を持つものと思われる。その点で,平成29年度にウィン・ジョーンズ教授,平成30年度にデナム教授と意見交換を行ったことには大きな意義があったと思われる。平成31年度にも,可能であればエディンバラ大学のチャーリー・ジェフリー教授やカーディフ大学のダニエル・ウィンコット教授など,「イングランドの将来に関する調査」の中心メンバーとの意見交換を継続して行っていきたいと考えている。
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Causes of Carryover |
2018年度末に85083円の未使用額が生じた。これについては,2018年度に行った海外研究調査の期間が,学内行政業務などの都合により若干短くなったことが理由として挙げられる。また,残額について年度末の限られた期間に無理して消化するよりも,次年度予算と合算した方が本研究の進展に,より意義のある使用が可能になると考えて次年度使用額に回すことになった。これにより2019年度に予定している海外研究調査について,期間的にある程度充実させることができると考えている。
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Research Products
(3 results)