2017 Fiscal Year Research-status Report
二〇世紀最初期における、欧州統合を用意した世界認識・国際秩序観・世界連邦論の解明
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17K03593
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
川嶋 周一 明治大学, 政治経済学部, 専任准教授 (00409492)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ヨーロッパ統合 / ポール・オトレ / 国際主義 / 連邦主義 / 機能主義 / 20世紀 / ローマ条約 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、欧州統合史研究と国際関係史研究を接合し、20 世紀前半における欧州統合認識の形成と変容を、世界認識との関わりから再検討するものである。具体的には、ベルギーの書誌学者・平和活動家のポール・オトレ、機能主義者、連邦主義者の国際秩序観ならびに欧州統合観を取り上げ、その思想の展開に影響を与えた国際状況の相互関係に焦点を当てることで、欧州統合を20 世紀史の中に位置付けることを最終的な目標とする。 2017年度においては、ベルギー、モンス市の文書館ムンダネウムに保管されているポール・オトレの個人文書を調査した。そもそもわが国において、オトレを対象とする研究は書誌学および建築学以外において存在せず、本研究で課題とする彼の国際政治認識に関する史料状況を明らかにすることから始めなければならなかった。個人文書調査において、2000頁に渡る所蔵史料の複写を行った。 またこの作業と並行して、20世紀前半、とくに戦間期における連邦主義ならびに国際主義に関する先行研究文献の精読を進め、連邦主義と国際主義がヨーロッパ統合や国際秩序への構想に対して、いかなる思想的貢献や影響を与えているかについて検討を重ねた。その部分的成果として、2018年3月初頭に世界政治研究会(於東京大学弥生キャンパス)で研究報告、報告タイトル「ローマ条約の成立とは何だったのか:三次元統合と20世紀史の中の欧州統合の位置付けをめぐって」を行った。 この研究報告の準備の中で、欧州統合を20世紀史の中に位置付けるためには最終的に1957年に成立するローマ条約を終点として検討することの必要性を強く痛感した。当初は、20世紀初頭から戦間期を経て1940年代までを研究対象年代として想定していたが、今後は、1950年代後半まで拡張したうえで、ローマ条約に結実する欧州統合を支えた思想についても解明を進めることとする。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2017年9月に行った史料調査で収集したオトレの個人文書の精読、ならびに連邦主義に関する関連文献の精査過程に遅れがでている。オトレに関しては、想定以上にマニュスクリが乱筆で解読しづらく、彼の国際秩序観をまだ充分には整理できていない。ただし、文書全体を概略すると、以下の点からオトレに接近することが肝要であると考えられる。 1)オトレの国際政治/国際秩序認識は1916年の著作を中核とすること。オトレの史料は完全には精査が終了していないが、彼が国際政治に関してまとまった著作を発表しているのは1916年に刊行した『国際問題と平和』のみである。したがって、この著作におけるオトレの国際認識をまず分析するのが肝要である。2)しかし1930年代まで活発に国際平和に向けた発信をしていること。オトレは1930年代まで世界平和を実現するための構想をメモにまとめていた事が分かった。3)盟友のアンリ・ラフォンテーヌとの相互認識を考慮に入れる必要があること、オトレは外部団体には積極的に参加していないが、ラフォンテーヌは極めて活発である。4)認識哲学との関連で文字情報に頼らない情報の認識構造への注目が政治秩序認識の解明の上で重要であること。ムンダネウムのアーキビストとの議論の中で、オトレの世界認識を考えるならば同時代の哲学的認識論をある程度理解する必要があるのではないかとの示唆を受け、ウィーンを中心とする哲学的議論について、先行研究を整理する必要がある。
また、当初想定していた2018年3月に実施予定だった史料取集が、実施できず、当初の進捗予定からみて、やや遅れていると判断せざるを得なかった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方針として以下を予定している。 1)アーカイブ史料収集の推進:平成30年度に、連邦主義・国際主義・機能主義に関する二度の史料収集を行う。平成31年度には同じく、2回の史料収集を行う予定である。 2)オトレ研究の継続:1916年に発表されたオトレの『国際問題と平和』の精読を進め、マニュスクリと照らし合わせながら、オトレの国際秩序認識を抽出する。また、ラフォンテーヌが欧州統合推進団体と関わっていたことがアーカイブ史料から明らかになったので、ラフォンテーヌの欧州統合観についても検討を進める。さらに、ノイラートなどの同時代的な哲学的認識論とオトレの国際認識の交錯について、検討を進める。 3)連邦主義・機能主義、ローマ条約研究の継続:連邦主義と機能主義が戦間期から戦後にかけて、どのように論じられ方が変わっていき、欧州統合に影響するのかについて、研究論文を中心とした先行研究の整理と、個別論点の設定に注力する。ローマ条約研究については、ローマ条約に結実する統合理念が、40年代から50年代にかけていかに形成されていくのかについて、研究論文およびアーカイブ史料の双方から検討を進める。 4)研究会発表:オトレに関する史料分析に基づいた研究報告を、可能な限り2018年度に実施する。 5)成果の発表:オトレに関する論考、連邦主義・機能主義、ローマ条約に結実する欧州統合理念の三点に関して、本科研費研究成果として論文として公表する。ローマ条約に関する研究については、本研究課題着手以前に従事していた研究の研究成果と合わせて、書籍として刊行することを予定している。
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Causes of Carryover |
2018年3月にフランスおよびイタリアへの史料収集を予定していたが、都合により渡欧できなかった。そのため、本来当該史料収集に掛かる経費として考えていた金額が2017年度中に執行できず、次年度使用することとなった。
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Research Products
(3 results)