2018 Fiscal Year Research-status Report
The IAEA Nuclear Inspection Procedures: Empirical Research for Breaking Through the Juridical Constraints and Limitations
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17K03610
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Research Institution | The Institute of Statistical Mathematics |
Principal Investigator |
芝井 清久 統計数理研究所, データ科学研究系, 特任助教 (90768467)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
向 和歌奈 亜細亜大学, 国際関係学部, 講師 (00724379)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 核不拡散 / IAEA / 査察 / 軍縮 / 軍備管理 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的はIAEAの査察制度とNPTによる核不拡散の活動をより効果的にすることである。従来の査察研究とは異なる視点から軍縮・軍備管理体制の活動内容の検証を理論的・実証的におこなうものである。平成30年度においては、前年度に引き続きIAEA査察の活動内容に関する情報収集、および査察制度のモデル化を推進したことで制度改善案の検討を前進させることができた。 本研究の独自性として挙げられるのは違反行為の抑止効果の向上を目指す点である。違反の検出能力の向上がIAEA査察における重要な課題であるからこそ自然科学系の研究が主流となるのだが、安全保障論からの視点でいえば違反行為の未然の防止も検出と同等かそれ以上に重要な能力であり、その視点からの研究が査察に関しては不足していると指摘できる。そこで、加盟国の違反を未然に挫いて環境を安定させる条件を査察・組織構造・条約内容など複合的な改善を目指している。主権による制約を受けるという前提条件を有しても査察による違反行為の抑止効果を高める戦略をどのように組み立てることが可能になるのか、それを動型ベイズ・モデルによって検証を試み、日本国際政治学会にて報告済みである。 さらに北朝鮮核問題など安全保障問題が多く存在する東アジアにおける軍事紛争の不安が日本や韓国をはじめとした各国でどのように異なっているのかを検証し、東アジア地域の安定に寄与する分析をおこなった。国際会議および英語論文として成果を報告し、さらに書籍掲載論文を執筆中である。 前年度に引き続きIAEAを訪問し、核合意から米国が一方的に離脱した後のイラン核査察の現場の状況と米朝首脳会談時におけるIAEAの活動などの情報収集をおこない、報道だけでは知ることのできない現場の実情を知ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の進歩状況は以下の通りである。 IAEA査察制度の理論研究に関しては予定通りの進捗状況といえる。100か国を超える加盟国への定期的査察をおこなうという想定の下、加盟国全体に違反行為の抑止効果を発揮できる戦略の考察は、理論モデルとはいえ演算は複雑にならざるを得ず、現在はその基本形の2人ゲーム・モデルの完成に近づいている。最終的にはn人ゲーム・モデルに拡大する必要があるが、それは複雑化するものであっても本質は基本形と異なるものではない。したがって、最終年までに基本形のモデルと最適戦略の確立を重要視しており、研究過程としては順調に進んでいるといえる。 IAEA査察の実情に関する調査は平成29年度に引き続きおこなうことで、国際情勢の変化におけるIAEAの活動を知ることができた。この点は一般には知られていない非常に貴重な情報である。特に米朝首脳会談時におけるIAEAの情勢変化への備えは、安全保障問題におけるIAEAの重要性を再確認する情報であった。また、昨年度にはソウル国立大学で行われた国際会議で東アジア各国の戦争不安に関する比較分析の機会を得て、軍事紛争の可能性や北朝鮮核問題が東アジア各国にもたらす影響の一端を考察した。特に日米韓の戦争不安に関する違いと韓国の特殊性をソウル国立大学の研究者および学生と話す機会も得られたことで韓国人の価値観を考察することもでき、北朝鮮核問題に関する考察を予想以上に進展させることができた。 軍縮・軍備管理条約に関する歴史的検討は平成29年度の遅れをやや取り戻しており、海軍軍縮条約からBC兵器関連の条約などの条項の作成と実際に安全保障上必要であった内容とがどれだけ一致しているのか、言い換えれば軍縮問題における理想と現実の乖離はどれだけあるものなのか。その点を明確にして、核軍縮の推進方法に役立つ情報をまとめ上げる予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度はこの3年間の成果のまとめとして、これまでの理論モデルの完成とIAEA査察の課題と改善案をまとめあげ、日本と海外の論文雑誌に投稿する。また、核不拡散政策に関する書籍も出版予定である。 ベイズ・モデルによって長期的視点の戦略的思考を取り入れ、将来の脅威を未然に防止できる抑止効果を生み出す査察戦略を考案する。さらには、その理論モデルを現実に落とし込む方法を検討する。北朝鮮とイランの核問題はアメリカの昨年度の外交政策によって解決からさらに遠ざかる恐れが出てきたが、どちらの核問題も問題解決にはIAEA査察の受け入れが不可欠であることに変わりはない。初期の時点で核開発へ逆行するインセンティブを持ちうるもしくは査察への警戒が強い国家に対して短期的にも長期的にも違反を抑止する査察戦略は、核問題の再燃を防ぐためには特に重要である。理論分析とフィールドワークの成果を組み合わせることで実現可能性のある査察制度案を構築することを3年間の研究成果として完成させる。 それに加えて、前述したように北朝鮮とイランの核問題への懸念が強まっていることもあり、IAEAにおける情報収集をさらにおこなう所存である。国家の重要施設に関わる査察の情報は基本的に一般公開されないため、査察に携わる人に直接聞かなければ情報が得られないためである。また一方で、IAEAでは過去資料のデジタル化を進めており、平成29年度では紙媒体の複写でしか資料を得ることができなかったが、平成30年度では資料を電子ファイルで受け取ることが可能となった。そのおかげでweb公開されていない資料の検索や未発見資料の発掘も非常に容易になりつつある。IAEA外部での検索はできず、あくまでも施設内でしか検索できないため、ますますIAEA訪問による情報収集の価値が高まっている。本テーマの継続研究も視野に入れた資料収集を行う所存である。
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Causes of Carryover |
平成30年度は予定していたIAEA訪問に加えて、海外の学会で核不拡散研究を調査する予定を立てたが、IAEA訪問予定日に対するアポイントメントの返事が渡航予定の5日前にようやく届いたため、航空券の値段が当初の20万円近く高くなってしまい、別途予定していた海外の学会への渡航費とするには不十分な金額となってしまった。そのため次年度使用額と合わせて海外訪問する計画に変更した。
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