2018 Fiscal Year Research-status Report
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17K03617
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
神取 道宏 東京大学, 大学院経済学研究科(経済学部), 教授 (10242132)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ゲーム理論 / くり返しゲーム / 協調 |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)私的観測下のくり返しゲームで、協調を達成する方法について、「相手の行動を見間違えるとき」や、「共同作業の結果(成功か失敗か)を見間違えるとき」について研究を進めてきた。部分観測マルコフ意思決定理論に基づいた均衡判定方法によって、前者では「悪い情報を見たら協調をやめ、n回連続して悪い情報を見たら協調に復帰する」、後者は反対に「n回連続して良い情報を見たら協調に復帰する」というのものが、協調達成の頑強な方法であることを発見した。本年度には、このような均衡行動が、より良い戦略が生き残り、成績の悪い戦略が淘汰される進化的なプロセスで本当に発生するかという「協調の進化」について、シミュレーションを使って研究を行った。 (2)コミュニティ・ユニオンにおける協調の実態調査を継続して行い、2015年7月から2018年3月までに、「誰が、誰を、いつ助けたか」についての詳細はデータベースを構築した。さらに、個人属性に関するデータの収集と整備を行った。このような詳細かつ大量のデータを用いて、一部のデータのみを使った以前の推定結果をより信頼性の高いものに改善する作業を行った。 (3)協調が達成されるその他のメカニズム、特に戦略を相手の出方を見ながら一定のデッドラインまでに自分の戦略を改定できるようなクラスのゲームを revision games として定式化し、その理論・応用分析をまとめた研究を、経済学分野でトップの学術誌 Econometrica に投稿し、 revise and resubmit の審査結果を得たことを受けて、改訂作業を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)「相手の行動を見間違えるとき」や、「共同作業の結果(成功か失敗か)を見間違えるとき」に、協調を達成するための単純で頑健な戦略を、前年度の研究により発見した板が、このような戦略が試行錯誤の調整過程によってはたして本当に生み出され、社会に定着するかどうかを、シミュレーションを使って分析した。その結果、理論研究によって発見された単純で頑強な戦略が、確かに調整過程の結果社会に定着するということが明らかにされたのは、大きな進展である。 (2)コミュニティ・ユニオンにおける協調の実態が、大量に収集したデータによって明らかにされた。とくに、「誰かを助けに行くと、その人がお返しに助けてくれることよりも、同じ人を助けるために出会った人同士が助け合う」という、以前にインタビューと理論研究であきらかにされたメカニズムがデータ分析によって実証された。また、助け合いのネットワークが、時間を通じてどう形成されたかを詳細にあきらかにするデータベースを構築できたのは大きな貢献である。 (3)戦略を相手の出方を見ながら一定のデッドラインまでに改定できるようなクラスのゲームの分析に関して、国際的に最も権威ある学術雑誌 Econometrica から「改訂の上再投稿すべし」という審査を得、とくに「応用として現実性の高いものを見つけること」という課題を出された。これに対し、証券市場の取引開始前の売り買い注文の改訂プロセスを新たに分析すること、および韓国大統領選での国防政策が選挙日前に改訂されたという事例を分析することに成功した。 (4)研究成果を、コペンハーゲン大学での国際学会で発表するとともに、フランスの Toulouse School of Economics で発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
「見間違えのある場合の、簡潔で頑強な協調達成方法」について、理論編・シミュレーション編の論文をまとめ、「協調の進化」にたいして自然科学系の研究者の関心が高いことを踏まえ、科学系の雑誌に投稿をする予定である。また、背後にある、状態変数が観察できないときの動的計画法を使った均衡特定化の一般理論の論文も完成させる。 コミュニティ・ユニオンについては、データ構築が完成したことを受けて、これをフルに活用した計量分析を進める。また、インタビューを通じて推定結果の確認をおこない、最終的に論文の形にまとめる。 戦略改訂による協調の分析については、Econometrica誌への掲載を目指す。さらに、これらの「人間の協調行動に関する理論的・実証的な分析」にかんする自分自身の研究をまとめた論文を執筆・投稿する予定である。
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Research Products
(6 results)