2018 Fiscal Year Research-status Report
Welfare effects of strengthening protection of intellectual property rights
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17K03623
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
祝迫 達郎 大阪大学, 経済学研究科, 教授 (40351316)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | R&D / 経済成長 / R&D補助金 / 企業分布 / 厚生分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、民間企業のR&Dに基づく経済成長モデルを用いて、知的財産権保護強化やR&D補助金など様々な制度・政策変更の効果を分析することである。 2017年度に行った移行過程を含めた知的財産権保護強化の厚生分析の研究成果は、2018年度に査読付き学術雑誌にonlineで公表された。 2018年度は研究"Innovation by Heterogeneous Leaders"の拡張を行った。従来の基本モデル(Grossman and Helpman (1991))ではリーダー以外の参入企業だけがR&Dを行い、リーダー企業はR&Dを行わず、またリーダーの技術改善幅も対称であった。本研究では、リーダーが非対称でかつR&Dを行う現実的な状況をモデル化し、分析を行った。第1の結果として「技術改善幅の大きい企業ほどR&Dを積極的に行わない」という結果が得られた。現実にも技術が他社に比べて高いとR&Dをしなくなる傾向がある(高度な平面ブラウン管を持っていたSony、高度なフォルム技術を持っていたEastman-Kodakなど)。研究の理論的な結果はこれらの傾向をうまく説明している。また、この傾向から、新規参入企業のR&D補助が、直観に反してリーダー企業の総R&Dを促進するという結果が得られる。新規参入企業のR&Dは、リーダー企業の市場を奪うので、個々のリーダーのR&Dを減少させる(「個別効果」と呼ぶ)。一方、新規参入企業のR&Dは、R&Dを積極的に行わない技術改善幅の大きいリーダー企業の分布を減少させ、技術改善幅が小さく次のR&Dを積極的に行うリーダー企業を増加させる効果がある(「分布効果」と呼ぶ)。この正の分布効果が負の個別効果を上回る可能性があり、結果的に新規参入企業のR&D補助が、リーダー企業の総R&Dを増加させる可能性が示された。 また参入規制・参入課税の効果の研究成果も公表した。異質な産業によって構成される一般均衡モデルで一様な参入課税が厚生を改善する可能性を示している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
異質な既存企業によるR&Dの研究に関しては、様々な拡張を行った。 まず、生産性を引く元の分布を現実的に拡張した。当初は解析的に分析するために一様分布に簡単化していた。しかし現実には企業の分布はパレート分布であると言われている。パレート分布では均衡の計算は難しいのではと予測していたが、パラメータを現実的な値に特定化することで、ある程度解析的に求めることができ、数値例も容易に計算することができた。 第2に、元の分析では現実で見られるベンチャー企業・中小企業への参入促進・R&D補助を分析するため、新規参入企業のR&D補助金だけに分析を絞っていた。そのため、リーダー企業のR&D補助金も分析すべきでは、とレフェリーに分析を促された。こちらも当初は解析的分析は難しいのではと予測していたが、予想に反してある程度解析的に分析することができた。これら様々な拡張を行い、分析を充実化することができた。予想していたより早く拡張分析を完了でき、Scandinavian Journal of Economicsに掲載受理された。 異質な産業によって構成される一般均衡モデルでの一様な参入課税の厚生分析に関しては、若手研究(B)(25780134)で既に行った研究成果であったが、2018年度、改訂し、査読付き学術雑誌に掲載し、研究成果を公表することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
異質な既存企業によるR&Dに関しては一連の研究が終わったので、次に予定している研究を進める予定である。現在、先進国・途上国の2国プロダクトサイクルモデルでの輸入関税の効果を分析した研究を田中仁史北海学園大学経済学部准教授と進めている。2019年度は田中氏と研究打合せを行い、分析を進め、論文が完成次第、研究セミナー・学会等で報告を行い、論文を改訂し、投稿していく予定である。 また、異質な産業によって構成される一般均衡モデルでの一様な参入課税の厚生分析に関しては、経済成長モデルへの拡張モデルも若手研究B(25780134)で構築している。この研究も分析を進め、改訂を行い、論文完成後、学会報告や、投稿をしていく予定である。
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Causes of Carryover |
当初予定していた研究打合せ・研究発表や英文校正などを行わなかったために、次年度使用額が生じた。また掲載された論文のオープンアクセス費用が多額になるため残した。
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