2018 Fiscal Year Research-status Report
A Quantitative Approach on Fiscal and Monetary Policy in a DSGE Model with Heterogenous Agents
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17K03632
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
山田 知明 明治大学, 商学部, 専任教授 (00440206)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 金融政策 / 所得格差 / 資産格差 / 動学的一般均衡理論 / ニューケインジアン |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度は主に下記2点の研究活動を行った。 第1に、2017年度にワーキングペーパーとして公表した"The Effects of Monetary Policy Shocks on Inequality in Japan (日本銀行の乾真之氏、須藤直氏との共著)"というタイトルの論文をComputing in Economics and Finance (CEF)で報告した。 第2に、財政・金融政策と格差の関係性を明らかにするために、総務省統計局が集計している「全国消費実態調査」を用いて、日本における1984年から2014年までの所得・資産格差に関する論文を執筆した(東京大学の北尾早霧教授との共著)。上記の乾・須藤・山田論文では、景気循環と金融政策、経済格差の関係性について、同じく総務省統計局が集計している「家計調査」を用いて時系列分析を行っている。家計調査の強みは、月次データであることから、短期の変動である景気循環と格差の関係性を把握できる点にある。一方で、家計調査は資産に関する情報が存在しないことから、金融政策によって金利や資産価格が変化した際に、それがどのようなルートを通じて家計の所得・消費・資産格差を拡大あるいは縮小させるのかについて、分析することが困難であった。それを補うために、全国消費実態調査を用いて、日本の所得及び資産格差に関する長期的な推移を分析した。 北尾・山田論文の重要な点は以下の通りである。所得格差については、従来から議論されているように高齢化の影響が強く、高齢者の所得格差を社会保障制度を通じて縮小させている構図が明らかとなった。一方、資産格差に関しては、所得格差とは異なる推移をしている。所得格差と異なり、資産格差は高齢化の要因を統計的にコントロールしてもなお、上昇している。特に、若年層のなかで資産を持たない層が増加している点を指摘した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
乾・須藤・山田論文は、2017年度に日本銀行及び国際決済銀行にワーキングペーパーとして登録済みである。2018年度にミラノで行った学会報告(CEF)で頂いたコメントに対応するために、現在、論文を改訂中である。CEFは経済学におけるコンピューテーション(科学技術計算)に関する研究報告が数多くなされる学会であり、我々が用いている標準的なNew Keynesian DSGEモデルの解法ではなく、最新のモデル化及び手法に切り替えてモデルを拡張すべきというサジェスチョンを多く頂いた。これらのコメントに対応するために、現在、モデル部分を修正している。また、途中経過を8月に開催されるSingapore Economic Review Conferenceで報告予定である(採択済み)。 北尾・山田論文については、経済産業研究所(RIETI)のDiscussion Paperに登録するための発表・修正を終えて、2019年度中にHP上に公表予定である。また、投稿に向けて実物資産に関するデータの追加作業を進めており、6月に開催される日本経済学会でも報告を予定している。 乾・須藤・山田論文については改訂が必要な部分が複雑であることから時間がかかっているが、実証パートについては完成済みである。一方、北尾・山田論文についても実物資産に関する格差の推移を追加した上で投稿予定である。以上から、研究は概ね順調である。
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Strategy for Future Research Activity |
乾・須藤・山田論文に関しては、改訂作業が終了次第、査読付き英文雑誌に投稿を予定している。同時に、2019年度は下記の作業を進める予定である。 (1) 北尾・山田論文では日本における所得格差と資産格差の推移を分析した。資産格差についてはデータの制約から、当初は金融資産(預貯金や株式、債券、投資信託など)のみを対象としていた。しかし、データがバブル期を含むこともあり、実物資産を含めた資産格差の推移についても分析が必要なため、全国消費実態調査の実物資産編に関するデータセットの構築及び推計作業に取りかかっている。まずは現在完成している金融資産のみについてRIETIのDPとした上で、本年度は実物資産、特に不動産価格の推移と資産格差の分析を行う予定である。 (2) 近年、財政・金融政策と経済格差の関係性はHANK (Heterogeneous Agent New Keynesian)モデルと呼ばれる一連の理論モデルが一般的に使われるようになってきた。残念ながら、数値計算の複雑さもあり、HANKモデルをもちいて日本経済を分析している研究は未だ少ない。HAKNモデルは流動性資産と非流動性資産(不動産など)といった状態変数が複数存在しているポートフォリオ選択モデルやライフサイクル局面を導入した世代重複モデルにも対応できるため、乾・須藤・山田論文のモデルを拡張して、より複雑な異質性を導入したマクロ経済モデルに基づいて政策分析を行う予定である。。
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Causes of Carryover |
海外出張時に現地通貨で学会登録料などを支払う必要があるが、為替レートが変化する可能性がある事から若干の余裕をもたせたため。
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