2020 Fiscal Year Research-status Report
A Quantitative Approach on Fiscal and Monetary Policy in a DSGE Model with Heterogenous Agents
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17K03632
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
山田 知明 明治大学, 商学部, 専任教授 (00440206)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 動学的一般均衡理論 / 金融政策 / 財政政策 / 所得格差 / 資産格差 / ニューケインジアン |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は昨年度に引き続き、"The Effects of Monetary Policy Shocks on Inequality in Japan"(日本銀行の乾真之氏、須藤直氏との共著)という論文の改訂作業及び分析の拡張を中心に研究を行った。本研究の内容は、論文タイトルが示唆するように、我が国における過去の金融政策が経済格差にどのような影響を与えてきたかについて、理論モデル及び個票データに基づいて分析するというものである。その研究のなかで明らかになったことは下記の通りである。(1)予期されない金融政策ショックは労働所得格差に影響を与えている。(2)金融政策ショックは総所得(労働所得に資産所得を加えたもの)格差及び消費格差には影響を与えていない。(3)近年、金融政策ショックが経済格差に与える影響は弱まっており、2008年までデータを延伸するとその影響は統計的に優位ではなくなる。(1)と(2)は予想外の結果である。なぜならば金融政策で政策金利が変われば、真っ先に影響を受けると考えられるのは預金金利や株などの金融資産からの収益である。しかし、そのチャネルは統計的に検出できないほど弱い一方で、直接、金利の影響を受けないはずの労働所得が金融政策の影響を受けていた。加えて、(3)が示唆するようにこの労働所得に与える影響は弱まっている。そこから考えられる一つの仮説は、金融政策が企業業績を通じて賃金に影響を与えているという可能性である。この仮説を検証するために、元々のスタート地点であった金融政策の理論モデルに労働市場のフリクションを加える必要があることが明らかになり、モデルの大幅な拡張が必要となった。そのため、現在、Nominal Rigidityが入ったDSGEモデルにいかに労働市場の不完全性を追加するかについて拡張可能性を研究している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
(1) 2019年度に執筆して経済産業研究所(RIETI)にて公表したDiscussion Paper(東京大学の北尾早霧教授と共著)については、現在、学術論文ではなく書籍として公刊する予定である。本プロジェクトの研究計画調書を書いた時点では学術論文として数十ページ程度にまとめて公刊する予定であったが、内容及び分量の観点から本のほうが望ましいと思われるため方針を変更することとした。幸い論文自体は、海外の研究者からのデータへの問い合わせなどもあり高い評価を得ていると考えられるが、論文と比較してかなり分量・作業量が多くなることから執筆途中の段階である。具体的には、Discussion Paperの段階では割愛していた家などの実物データに関する分析が不足していることから、これから分析を行っていく予定である。また、労働分配率についても分析を加えている。 (2) 上述の通り、"The Effects of Monetary Policy Shocks on Inequality in Japan"に関連した論文についても、ニューケインジアンDSGEモデルにいかにして労働市場の不完全性を追加するかで試行錯誤をしている段階である。方向性としては近年の連続時間におけるHANK(Heterogeneous Agent New Keynesian)モデルとMcKay and Reis (2016,Econometric)のような離散時間モデルにおけるインパルス応答関数の数値計算のいずれかになると考えられるが、どちらがより適しているのかについてプログラミングを行っている。途中経過報告は、2021年3月に実施されたWEAI(Wester Economic Association International)にて学会報告を行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
新型コロナウィルスの感染拡大に伴って、当初想定していた2020年度前半に開催予定であった国際学会報告がキャンセル、あるいは2021年度に延期となった。その影響により、本来であれば研究成果を報告して得られたコメントを元に論文を改訂するというプロセスに若干の支障があった。この点は2020年度後半に慶應義塾大学にて行ったオンラインでのセミナー報告及び2021年3月に実施されたWEAIでの学会報告で挽回されたものの、本来2020年度で終了予定であった本課題の延期申請につながった。2021年度も引き続き対面での学会報告は困難な状況であるが、論文を完成させて海外学会へ投稿していく予定である。また、データ分析についても新型コロナウィルスの影響が出ている。2020年度は海外共同研究強化(A)に伴って、ロンドンに滞在をして、4月から1年間Queen Mary University of Londonで研究を行う予定であった。2020年4月の段階で英国がロックダウンを実施したため出発が遅れ、8月末にようやく英国に入国できた。加えて英国はいわゆる変異株の蔓延によって12月から3月まで3回目の長期ロックダウン(2回目は11月に実施)を行った。本来の予定では、経済格差に関する個票データは秘匿データのため日本でしか扱えないので、日英を頻繁に行ったり来たりしながら研究を行う予定であったが、それが不可能になった。2021年度は日本に帰国しているためデータへのアクセスは可能であるが、研究計画には大きな支障が出ている。多くの学会報告や海外共同研究の打ち合わせはオンライン化しており、逆に現在は現地に行かなくてもZoomなどで(不便ではあるが)コミュニケーションが取れる状況にある。そのため、データ分析及び前述のモデルの拡張を完成させる予定である。
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Causes of Carryover |
当初の予定では、2020年度に国際学会への参加・報告を予定しており、そのための渡航費(飛行機代及びホテル滞在費)を計上していた。しかし、新型コロナウィルスの世界的蔓延によって国際学会が中止となったため、差額が生じることとなった。
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