2018 Fiscal Year Research-status Report
企業の異質性を伴う内生成長理論による長期停滞の構造分析
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17K03635
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
及川 浩希 早稲田大学, 社会科学総合学術院, 教授 (90468728)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 資源再配分 / 金融政策 / イノベーション |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究でこれまでに構築してきた理論モデルは、インフレーションが企業間の資源再配分を引き起こすことを示唆している。実際に、日本の企業レベルのデータと、産業別の価格指数の関係を調べると、投入価格のインフレ率が高いときに、大企業と小規模の企業との間の差が広がることが分かった。この傾向は、他の要因をコントロールしても変わらない。 また、短期と長期の間を埋めるシミュレーション分析も行った。本研究は、貨幣ショックが経済成長に対して与える影響に主眼を置いているため、これまで長期的な効果を重点的に分析してきた。この研究方針は、長期の分析が従来の研究ではあまり行われてこなかったためであり、総合的な政策評価には短期・長期の効果を合わせては判断する必要がある。平成30年度の研究では、貨幣的な変化が生じた後、マクロ経済が長期的に成立する経済状態に至るまでにたどる道筋をシミュレーションすることで、短期と長期の効果を総合的に観察した。緩和的な金融政策ショックが生じたとき、価格が速やかにショックを吸収しない場合、ケインジアン的な需要創出効果が短期的に生み出され、消費水準を押し上げる。しかし一方で、そのショックがインフレ率の上昇を伴うと、イノベーションのインセンティブを阻害し、ネガティブな成長効果を生む。全体として経済厚生にプラスに働くかマイナスに働くかはパラメーターに依存することになるので、政策評価は状況に応じて慎重に行わなければならないことを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
根幹となる理論分析・実証分析が一段落し、成果をワーキングペーパーをまとめた。また、複数の国際学会で報告するとともに、学術誌への投稿を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
学会等における論文報告で得られたフィードバックを取り入れ、以下の点について改訂を加える。一つは、実証分析の精緻化である。これまでの実証分析は、インフレ率の企業規模分布の変化の間に有意な関係があり、理論モデルと整合的ではあったものの、ダイレクトな検証にはなっていない。この点を改善するため、企業レベルでの研究開発投資とインフレの関係や、他に考えうる仮説との説明力の差を検証する。もう一つは、カリブレーションをより日本経済の現状を捉える形で行うことである。現状では、モデルに挿入するいくつかのパラメータは先行研究に依存しており、必ずしも日本の事情に密接ではなかった。この点を改善することで、より日本経済に則した政策提言につなげることができると考える。
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Causes of Carryover |
現状の設備および資料等で、平成30年度の研究の多くの部分を進めることができたため、翌年度以降の国際学会報告等のための支出に回すこととした。
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Research Products
(4 results)