2019 Fiscal Year Research-status Report
企業の異質性を伴う内生成長理論による長期停滞の構造分析
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17K03635
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
及川 浩希 早稲田大学, 社会科学総合学術院, 教授 (90468728)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | イノベーション / 資源再配分 / 最適インフレ率 / 経済成長 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は二つの点でプロジェクトを展開させた。第一に、日本の企業レベルの研究開発投資がトレンド・インフレ率に対してネガティブに反応すること、ただしその効果は大企業であるほど小さくなることを実証的に示した。これまでに展開してきた理論においては、インフレによってもたらされる価格改定費用が研究開発のインセンティブを阻害するものの、その影響は企業のタイプによって異なり、研究開発能力の高い企業ほど影響を受けにくいことを基本的なメカニズムとしていた。その結果として、インフレは能力の低い企業から高い企業への資源再配分を促し、経済全体の成長を促進する効果を持つとしていたわけだが、今回の実証研究により、その理論的メカニズムの現実的な有意性がより明確になった。この点を中心に、理論をサポートするその他いくつかの実証分析と、より現実的に日本の企業データ・マクロデータにフィットさせるモデルのカリブレーションを追加的に実施した。結果として、最適なインフレ率は、研究開発投資への影響を無視した場合よりも高くなることを示した。これらの結果をまとめた論文を国際学術誌に投稿済みである。 第二に、特許データから抽出される企業間の技術的距離の時間を通じた動きを再現する研究開発プロジェクト選択のモデルを構築した。この枠組みは、ミクロ的な企業の研究開発の意思決定を通じてマクロ的な生産性成長への影響をシミュレーションするためのベースになる。例えば政策実験の一つとして、特許保護を強めることによりマクロ的な研究開発投資が減少するケースを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画から大きく外れることなく、概ね順調に研究の遂行ができている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究で明らかにしたインフレの成長促進効果は、逆に言えば持続的な低インフレがスムーズな企業淘汰や資源再配分を阻害し、経済成長を抑制することを意味する。また、これまでに得た結果は、経済の長期的な停滞から抜け出すためには、企業の研究開発が重要な役割を果たすが、単に研究開発投資の総量を高めるだけでは十分ではなく、研究開発の質も重要であることも示唆している。したがって、質の高い研究開発プロジェクトを遂行できる企業が市場で順当に生き残り、資源が効率的に活用される環境を整えることが、政策目標になる。本研究では若干のインフレ率がある程度自動的にそれに貢献することを新たに示したが、インフレ率は自在にコントロールできるわけではない。そこで、インフレ目標を追求すると同時に、ゼロインフレやデフレ下であっても研究開発能力を軸とした企業淘汰を促す政策を考える必要があるだろう。本研究の第二の取り組みは、企業の研究開発行動に直接働きかける特許政策等の効果を定量的に見出すことを目的としている。現状では、モデルのカリブレーションを十分に行っていないので、最終年度を通じて、現実のデータに即したパラメーターの探索を行い、その上で政策効果の仮想実験を行う。
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Causes of Carryover |
2019年度は米国に研究拠点を移していたため、国際学会への参加に要する費用が当初予定よりも少なかった。このため、2020年度により多くの国際学会への参加が可能になると考えていたが、少なくとも当面は海外渡航が難しい状況であるので、2021年度へのさらなる繰り越しも視野に入れている。
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Research Products
(4 results)