2020 Fiscal Year Research-status Report
企業の異質性を伴う内生成長理論による長期停滞の構造分析
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17K03635
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
及川 浩希 早稲田大学, 社会科学総合学術院, 教授 (90468728)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | イノベーション / 資源再配分 / 最適インフレ率 / 経済成長 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、日本の経済成長の長期的停滞のメカニズムを探究するため、金融政策をはじめとする貨幣的ショックが経済成長に対して持つ影響を分析している。特に注目しているのは、イノベーション能力に異質性のある企業間の資源再配分効果である。イノベーション能力が高い企業がより多くの研究開発資源を利用できれば、全体的な研究開発の効率性が高まり、経済成長、ひいては経済厚生を改善する可能性があるが、そうした再配分機能がうまく働かなければ停滞する事になる。 本研究の貢献の一つは、企業の研究開発をエンジンとする内生的経済成長の理論に、価格改定の費用によって生じる名目価格の硬直性を導入することで、インフレ等の貨幣面での変化が実物的な経済成長と、それに伴う企業淘汰・資源再配分に影響する理論モデルを構築したことである。また、その理論に照らして日本企業の財務や研究開発支出のデータを検証することにより、企業によってインフレに対する反応が異なり、企業規模の差が研究開発投資の差をさらに膨らませる傾向が生じて、インフレ化で企業間の規模格差が拡大することを見出した。これは、インフレはイノベーション能力が高い企業に資源が振り向けられるトリガーになりうること、さらに言えばインフレに経済成長を促進する効果があることを示唆している。こうした結果は最適インフレ率の議論につながり、若干のプラスのインフレ率を目指す金融政策目標に対し、従来なかった側面から理論・実証両面でのバックボーンを与えるものになる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
理論モデルの構築とそれに基づくシミュレーションをすでに行なっており、実証分析も深めることができた。主要な論文の学会における報告と、学術誌への投稿も進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究プロジェクトが今年度を通じて取り組む課題としては、主として以下の二点が挙げられる。第一に、インフレ率を算出する際に対象とする物価系列に幅を持たせることである。従来用いてきた投入物価指数に加えて、産出物価指数、消費者物価指数、GDPデフレーターなど、産業およびマクロ・レベルでの各種のインフレに対しても、これまでに確認してきた主要な結果と同様の反応が生じているのかを検証する。また、物価指数によって反応が異なるとすれば、その原因は何かも分析する。この追加的な検証は、一義的には本研究の主要命題の頑健性チェックであるが、同時に、インフレが持つ企業行動と産業構造への波及効果を多面的に捉える上で役立つ可能性がある。 第二に、インフレが実質経済成長や経済厚生に与える影響について、より詳細な分解を行う。数値計算を用いた影響経路の分解はこれまでにも行ってきており、産業内のイノベーション頻度、イノベーションによる平均的な品質改善の程度、企業の価格付におけるマークアップの程度などに分けることができる。しかし一方で、分解された各要素の規模の大小関係の分析は数値計算によるシミュレーションに頼っており、それがどのような市場条件によって決まるのか、理論的には明らかにできていなかった。この点の理論的追求は、本研究自体の精緻化のみならず、最適なインフレ率がどのあたりにあるのかを、国や時代によって大まかに分類することにつながる可能性がある。
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Causes of Carryover |
コロナ禍で学会が中止になるなど、主として海外学会出張のために計上していた旅費の支出が行われなかった。今年度後半では、米英を中心にある程度の学会が現地で行われる見込みである。
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