2017 Fiscal Year Research-status Report
大学史のなかのイギリス経済学--東インド・カレッジからオックスフォード大学へ
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17K03644
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Research Institution | Tokyo Keizai University |
Principal Investigator |
安川 隆司 東京経済大学, 経済学部, 教授 (40230213)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
益永 淳 中央大学, 経済学部, 准教授 (00384727)
只腰 親和 中央大学, 経済学部, 教授 (60179710)
荒井 智行 下関市立大学, 経済学部, 准教授 (70634103)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 東インド会社 / 東インド・カレッジ / マルサス / ジョーンズ / マカロク / ローイ / オックスフォード大学 / 経済学の制度化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,東インド・カレッジ(経済学教授マルサス)とオックスフォード大学(同教授ウェイトリ)に焦点をあてて,ディシプリンとしての経済学の形成過程を分析対象としている.本研究では,それぞれの大学において開講された「経済学講義」の開講までの経緯,背景と,その内容,意義,ならびに二機関での講義の歴史的連関を明らかにすることを目的にしている. 安川は,19世紀前半から半ばにかけて,東インド・カレッジのマルサスからジョーンズへの経済学講義が,東インドに与えた影響関係について検討している.インドの人口論史において著名なローイやラーナデーと東インド・カレッジの講義に参加した受講生との交流関係の有無等について,膨大な資料から分析・探究している. 只腰は,オックスフォード大学の経済学の制度化を解明すべく,平成30年3月2日に,中央大学経済研究所の公開研究会において,「マカロクの経済学の方法論」について研究報告を行った.そのほか,ウェイトリについては,彼のカタラクティクスをめぐって検討しており,マカロクとウェイトリの経済学方法論の特質を明らかにする論文を執筆している(平成30年の10月までには公刊される予定). 東インド・カレッジのマルサスの経済学講義については,益永と荒井が共同で研究を行っている.2017年度は,益永がフランスのリヨン大学で在外研究を行っていたため,3カ月に1回の割合で,スカイプを通じて研究会を行い,互いの研究の途中成果についての報告を行った.互いの研究の方向性や枠組みを確認するとともに,それぞれの資料分析の結果について議論を重ねた.マルサス経済講義の受講生の成績表を論文化するのにこれまで困難と考えていたが,こうした研究会の積み重ねにより, 論文化への道筋をつけることが可能になった.平成30年度において,益永,荒井ともに個別の英字論文を海外の学術誌に投稿する予定である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
安川は,マルサスの人口学説が,英国領時代のインドにおいて,インド人の知識人たちにどのように受容され,彼らの言説にいかに影響を与えたのかについて分析を進めた.ローイ,ラーナデー,ナオロジー等の19世紀前半から後半にかけて活躍したインドの知識人に焦点を当てながら,彼らにおけるマルサス人口学説について幅広く探究した.そして,東インド・カレッジにおけるマルサス講義を聴講した受講生が東インドに派遣されたことから,この点についての資料分析を通じて,マルサス講義の受容・影響関係という観点からも,彼ら3人とのつながりについて検討した. 只腰は,平成29年度において19世紀前半期のイギリス経済学の制度化過程を検討した.前年度に発表したJ.ミルの方法論についての論文との関連で,マカロク,ウェイトリの経済学方法論を検討するのが研究課題であった.彼らの時代の科学史や大学史の流れを考慮しつつ,彼らの経済学方法論を考察することにより,経済学の制度化の展開の解明に努めた. 益永は,東インド・カレッジにおけるジョーンズの経済学講義を再構成するための研究を行った.その結果、British Parliamentary Papersの中にジョーンズがイギリス議会で行った1835年の証言を見出した.この事実は,同カレッジにおけるマルサスからジョーンズへの講義形式における連続性と,当時の他の諸大学と比較した時の同カレッジの経済学講義の独自性を示すものとして,極めて重要である.この重要資料の発見は,本研究の論文作成の上でも大変有意義なものである. 荒井は,東インド・カレッジにおけるトマス・ロバート・マルサスの経済学講義の特徴と講義の設置プランの経緯を明らかにすることを2017年度の研究目的とした.この目的を遂行するために,2016年度に現地の英国の大英図書館で収集したマルサスの経済学講義の資料分析を集中的に行った.
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策として,本研究での研究会や各自の学会報告を行いながら,論文の改善に努め,研究をより発展させていくことが求められる.その核となるのは,本研究員同士の研究会である.幸いにも,本研究の4名のうち3名は東京都内の大学に所属しており,さらに近隣の大学でもあるため,研究会を通じた各研究員の研究を相互にチェックし合う体制は整っている.また,平成30年度に下関市立大学に着任した荒井は,これまでの任期制教員から専任への身分変更により,本研究の研究会への参加のために東京に出張することは十分可能である.こうした研究会では,互いの研究のチェック体制にも努めていく予定である. 平成30年度の研究会においては,外部のインド史研究者を交えて研究会を開催する予定である.そのなかで,安川が本研究の大学史との関連で,ローイやラーナデー等の経済学の特徴,只腰がオックスフォード大学の制度化との関わりで,マカロクの経済学方法論の特質について,それぞれ報告する予定である.益永は,平成30年6月に,European Society for the History of Economic Thoughtの22nd Annual Conference (at Complutense University of Madrid, Spain)において,ジョーンズの経済学講義について国際学会報告を行う.また,同講義の受講生が書き取ったノートが現存していないかを再度調査するためにイギリスに出張する予定である.荒井は,平成30年6月に,マルサス学会大会(於尾道市立大学)において,フランス啓蒙思想が,エディンバラ大学の経済学教授,D.スチュアートの経済思想にいかに影響を与えたのかについて,報告を行う.これらの研究会や学会での報告は,本科研費の研究会にフィードバックさせ,本研究の発展・向上につなげられるよう努める.
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Causes of Carryover |
次年度使用額が発生した理由は主に2つある。研究代表者の安川が年度末に英国における調査を行うことを計画し、交通手段や宿泊先等の具体的な準備をしたものの、直前になって家事都合(家族の急病)によりキャンセルせざるをえなかったため、当該年度の予算額が全額未執行に終わったということが一つ目の理由である。また、研究分担者の益永は、昨年度は在外研究中で、予算計上はしたものの、支出は所属機関の在外研究費の範囲内に収まったため、全額繰り越しとなった。これが二つ目の主たる理由である。 当年度は、安川は海外における調査を前年度分を含め、複数回実施することを計画しており、益永についても、昨年度末に帰国し、4月から国内の所属機関を拠点とした研究活動に復帰していることから、次年度使用額の執行は順調に進むものと考えている。
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Research Products
(3 results)