2018 Fiscal Year Research-status Report
大学史のなかのイギリス経済学--東インド・カレッジからオックスフォード大学へ
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17K03644
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Research Institution | Tokyo Keizai University |
Principal Investigator |
安川 隆司 東京経済大学, 経済学部, 教授 (40230213)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
益永 淳 中央大学, 経済学部, 准教授 (00384727)
只腰 親和 中央大学, 経済学部, 教授 (60179710)
荒井 智行 下関市立大学, 経済学部, 准教授 (70634103)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | イギリス経済学 / 東インド・カレッジ / オックスフォード大学 / マルサス / リチャード・ジョーンズ / マカロク / ウェイトリ / ラーナデー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,19世紀前半期イギリス経済学の歴史的変遷を,主として東インド・カレッジ,オックスフォード大学,インド経済学者のラーデナーに焦点をあてて,ディスプリンとしての経済学の形成過程として研究するものである。 荒井は,東インド・カレッジにおけるマルサスの経済学講義の制度化のプロセスについて,大英図書館で収集した資料の分析を進めることにより,前年度と比べて研究の進展が見られた。その途中成果として,2018年11月に開催された経済学史学会西南部会において研究発表を行った。益永は,リチャード・ジョーンズが東インド・カレッジの歴史および経済学の教授に就任した直後の1835年において彼が議会で行った証言を手掛かりに,前任者のマルサスからジョーンズに引き継がれた経済学講義の方法(‘catechetical lectures’)について研究を進展させた。その成果として,2018年6月に開催されたEuropean Society for the History of Economic Thought Conference の場で国際学会報告を行った。只腰は,マカロクとウェイトリに関して,彼らが経済学の概念装置を用いて経済学方法論を論じていたことを明らかにし,その成果として編者として関わった共著書1冊を刊行したほか論文1本を発行した。安川は,インドの高等教育機関へのイギリス経済学の導入に関して,イギリス側の資料を中心に資料収集を行いながら研究を進展させ,一定の成果を収めた。インド側の資料については現在までのところアクセスできていないが,大英図書館での資料収集により研究の発展が見られた。初期のインド経済学を代表するラーナデー及びほぼ同時代のナオロジーの経済論については,本邦においては研究蓄積が必ずしも十分ではないことから,公刊された著作の分析を優先すべきとは判断し,注力している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究による共同研究において,各自の研究状況は概ね芳しく概ね良好の状況にある。荒井は,東インド・カレッジにおけるマルサスの経済学講義の制度化のプロセスに焦点を当てた。彼の講義においてインドとブリテンとの政治的・経済的関連が重要な要をなしている点について,大英図書館で収集した資料を用いながら研究を深化させている。益永は,東インド・カレッジにおけるリチャード・ ジョーンズの経済学教育の具体的な内容について,これまで発掘ないし注目されてこなかった大英図書館所蔵の資料を用いながら,再構成に尽力している。そのほかにも,2019年3月にはロンドンとケンブリッジにおいて再度の文献調査を行った。それにより,ジョーンズとヒューウェルとの往復書簡による研究に進展が見られた。只腰は,従来からの課題である19世紀前半のイギリス経済学のディシプリンとしての洗練化過程の検討を続けている。D.ステュアート,J.ミル,マカロク,ウェイトリという系譜で問題を捉えることにより,昨年度よりも本研究の枠組みを進展させた。安川は,旧インド省文献を所蔵する大英図書館において,イギリス経済学のインドの高等教育機関への導入に関連する資料を収集するとともに,イギリス経済学のインドにおける受容の実態を解明するために,初期のインド人ナショナリスト経済学者の思想形成過程の検討作業として,特にM.G.ラーナデーに焦点を当てて研究を行っている。なお,今年度は,インド史研究者の長尾明日香氏(大阪市立大学大学院文学研究科都市文化研究センター研究員)による研究報告会を開催し,本研究の共同研究者による研究を深めると同時に,互いの研究状況を確認した。 これらの内容から,本研究は,それぞれの大学の「経済学講義」の開講までの経緯,背景と,講義の特徴,内容,意義について,昨年度よりもそれぞれの研究において深化・発展させている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進策は,各自の研究会・学会報告を行いながら,それぞれ論文の改善に努めながら本研究をより発展させていくことである。本年度が本研究の最終年度となるだけに,今後は,各自がそれぞれの役割を担う論文を完成させていかなければならない。現時点では,各自の研究状況は概ね順調であるものの,各自が作成した論文については,学会誌等に論文を投稿する前に,互いにチェックを重ねていく予定である。各自の今後の研究課題は以下の通りである。 安川は,残された課題の筆頭はインドの高等教育機関の原資料の調査であると考えている。成果の公表に関しては,現在のところ,イギリス経済学のインドでの制度化とその影響を受けてのインド経済学の成立という複合的なテーマを立てて論文を執筆する予定であるが,今後の調査の進展状況によっては,この2つを切り離し,個別に論文化する可能性も残っている。只腰は,オックスフォード大学の制度化との関わりで,マカロクとウェイトリの経済学方法論の特質についてさらに分析する必要がある。これらの内容について昨年度に進展させた研究を基礎にしながらも,マカロクの著作集やウェイトリの経済学講義の研究をより発展させていく予定である。益永は,2018年6月の学会報告で得た多くのコメントおよび2019年3月の文献調査で収集した資料を発展的に盛り込みながら論文のブラッシュ・アップを図り,今年度中の海外ジャーナルへの論文投稿を目指す予定である。荒井は,2018年11月の学会の部会報告で得た多くの意見とこれまで収集した文献資料を扱いながら,2019年内に海外の学術誌への論文投稿を目指す予定である。 これらの内容に見られるように,各自の研究課題は明確であり,それぞれの研究課題を克服するために,今後も共同研究者同士の相互チェックを重んじていく予定である。
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Causes of Carryover |
「現在までの進捗状況」に記したように,研究の進捗状況は概ね順調であるが,いくつかの要因から,当初の計画において計上した額と実際の使用額に若干の差が生じる結果となった。 主な理由の一つは,研究分担者の益永が,平成29年度に所属機関の助成金により在外研究を行った関係で,計画通りの執行ができなかったという事情である。また,同じく研究分担者の荒井が平成30年度に,それまでの私立大学の期限付きの研究員から,公立大学の専任准教授の地位に就いたため,研究費の受給状況が大きく変わったことも理由に挙げられる。これらの事情は,研究計画そのものにマイナスの影響を与えうるものではなく,計画した額と使用額の差額は最終年度のうちに調整されるものと考えている。
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Research Products
(6 results)