2017 Fiscal Year Research-status Report
J.R.コモンズにおける意思主義の特質と制度進化の意味
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17K03652
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Research Institution | National Institute of Technology, Toyota College |
Principal Investigator |
加藤 健 豊田工業高等専門学校, 一般学科, 准教授 (70612399)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | アメリカ制度学派 / J. R. コモンズ / 意思主義 / 制度進化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,近年国内外において盛んに研究されているJ.R.コモンズの思想を内在的に再構成し,19世紀末以降のアメリカ経済思想における人間の行動モデルの描き方に対するコモンズ的な意思主義の特質,および,法もしくはルール発見を含むコモンズ的な制度進化の意味を明確にすることにある. 平成29年度は,コモンズ独自の意思主義や制度進化を把握する手がかりを掴むために,夏季休業期間中にアメリカ・ウィスコンシン州の州立歴史協会にて“John R. Commons Papers”をはじめとする一次資料の把握・収集を行った.特に初期のマニュスクリプトやマイクロフィルム化されていないPart 2からPart 5について,例えば,集団行動,法と経済学,心理学的経済学などをキーワードに,意思主義や制度進化に関わる資料を調査した.目下,今回収集した資料の解読を行っており,『社会改革と教会』(1894年),「統治権の社会学的解釈」(1899-1900年),『労働と行政』(1913年)および『資本主義の法的基礎』(1924年)において展開された意思主義や制度進化の議論と突き合わせながら作業を進めている. これまでのところ,コモンズ経済思想の特質が,特定のクラスの利害拡大ではなく社会全体のウェルフェアの改善を図るために,経済学者が社会改革のための制度設計プロセスに参加し,法的ルールの制定を通してコミュニティーのメンバーの自由を拡大させようとする点にあることが明らかとなり,その研究成果の一部を論文にまとめた.また,コモンズの意志主義の特質については,法と取引との関わりをめぐる議論において,当時の主流派であった限界生産力理論の受動的な経済主体ではなく,欲望充足パターンを能動的に選び取っていく「行動における意思」を備えた経済主体を重視して分析しているというユニークな点を指摘することができる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は,「研究の目的」に記載した通り「J.R.コモンズの思想を内在的に再構成し,19世紀末以降のアメリカ経済思想における人間の行動モデルの描き方に対するコモンズ的な意思主義の特質,および,法もしくはルール発見を含むコモンズ的な制度進化の意味を明確にすること」を目的としている.この「研究の目的」に照らして本研究課題の進捗状況を評価すれば「やや遅れている」といえる.その理由は,次の2点にある. (1) 一次資料の把握・収集について.平成29年度には,日本において入手不可能なコモンズの初期マニュスクリプトやマイクロフィルム化されていないコモンズ・ペーパーなどの一次資料をアメリカ・ウィスコンシン州の州立歴史協会にて把握・収集することができた.しかし,コモンズが描き出そうとした「意思」を備えた経済主体の内実を正確に捉えるためには,当時の社会心理学や行動主義的心理学,法社会学などの多方面の分野との関わりの中で論じる必要があるが,当初予定していた資料の把握・収集作業がまだ一部実施できていない状況にある. (2) 学会報告および論文執筆について.平成29年度において,社会全体のウェルフェアの改善のために法的ルールの制定を通してコミュニティーのメンバーの自由を拡大するというコモンズ経済思想の特質の一端を明らかにし論文にまとめることができた一方で,コモンズの意思主義の特質の全体像を把握する作業はまだ一部にとどまっている.そのため,平成30年度には,新たに収集した資料および今後収集予定の資料と刊行論文や著作との突き合わせ作業をより一層進め,これらの研究成果を学会で報告する際の国内外の研究者との意見交換を通して論文の構想を練り上げていく必要がある.
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度において実施したコモンズの意思主義的な議論の特質と制度進化の意味を明確に把握するための準備作業を受けて,平成30年度においては,制度学派やその周辺領域をはじめ,まだ実施できていない社会心理学や行動主義的心理学,法社会学などの分野に関するテクスト・著作等の把握・収集作業をより一層進めていく.また,コモンズの意思主義的な人間把握の淵源を探るために「統治権の社会学的解釈」から『資本主義の法的基礎』にかけて展開される意思主義の議論をJ.B.クラーク『富の分配』(1899年)などを検討素材として,当時のアメリカにおける正統派経済学における人間の行動モデルの把握と比較検討する.さらに,第1次世界大戦を契機にアメリカ経済社会のコントロールの可能性を探ろうとした「知的な運動」としての制度学派が前提とする人間の行動モデルについて,ミッチェルの正統派経済学の「経済人モデル」批判の論評などを参照しながら検討し,当時の制度学派の進化論的経済学の系譜の中に,コモンズの意思主義的な議論の特質と制度進化の意味を位置づけていく.なお,これらの研究成果を日本語論文としてまとめる作業と並行して,海外の研究者との議論を展開するために英文ペーパーの作成を進め,内外の査読付き学会誌に投稿していく.
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Causes of Carryover |
(理由) 洋書購入として見込んでいた金額が,見積もり段階よりも為替レートの変動等により安価となり,結果的に674円分の差額が生じたため. (使用計画) 平成30年度の洋書購入費用として使用する予定である.
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Research Products
(1 results)