2021 Fiscal Year Research-status Report
自動車関係諸税における取得・保有税と走行距離課税の水準に関する研究
Project/Area Number |
17K03710
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
田邉 勝巳 慶應義塾大学, 商学部(三田), 教授 (90438995)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 自動車関係諸税 / 走行税 / 燃費 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は走行距離課税を考慮した、日本における自動車関係諸税の望ましい税水準・税体系を求めることを目的としている。燃料税から走行距離課税への移行といった税体系の変化がもたらす影響を分析するため、自動車(特に乗用車)の需要関数を推定する。走行距離課税は道路混雑といった自動車交通に由来する外部費用を内部化する課税が比較的容易であり、適切な税水準・税体系の設定次第で現状よりも望ましい税になる可能性がある。しかしながら、こうした走行税導入の政策受容性は低い。現実的な施策として、全国均一の税収中立的な走行税の導入があり、この場合の影響を分析することも重要である。 本年度も引き続き、自動車の需要や外部費用に関する既存研究を収集、整理し、都道府県別のガソリン販売量を用いたガソリン需要関数の改良に努めた。得られた推定結果から、燃料税と同じ税収となる均一の走行税導入のシミュレーション分析を行い、一定の現況再現性を確認している。また、都道府県別の走行距離、税収に与える影響の違いを把握した。本年度は揮発油税だけでなく、軽油引取税を合わせた税収中立的な走行税導入のシミュレーション分析も行った。これに加えて、自動車から排出される二酸化炭素の量を試算した。 現時点でのシミュレーション分析は税の変化が自動車保有や走行燃費に与える影響を考慮していない。この課題に対処するため、自動車燃料消費量調査の走行燃費データを利用して、燃料価格が走行燃費に与える影響に関する予備的分析を行った。また、頑健性を確認するため、自動車燃料消費量調査のデータを用いて、先と同様な手法によりガソリン需要関数の推定を試みたが、現時点で良好な推定結果を得ることができなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は走行距離課税の導入を踏まえた望ましい自動車関係諸税の税水準・税体系を求めることを目的の1つとしている。自動車交通の外部費用のうち、道路混雑は場所や時間帯によって費用が変動することから、燃料税による外部費用の内部化は困難であるが、走行距離課税はその実現可能性がある。よって、燃料税に代わる走行距離課税の導入が自動車需要にどのような影響を与えるのかを把握することも重要な研究課題である。これらの目的を達成するため、自動車の需要分析が重要である。 自動車の需要は大きく、購入・保有・利用に区分することができる。乗用車に関する自動車利用の個票データも入手済みではあるが、本研究は集計データを用いた需要分析から着手している。自動車購入、自動車利用(ガソリン需要)に関しては、それぞれ需要関数を推定している。どちらも一定の成果を得ているが、研究途上であり、データセットの見直し、モデルの改善・精緻化、頑健性の確認が必要である。一方、自動車保有に関する分析は現時点で行われていない。 税制の変更シミュレーションに関しては、税収中立的な均一の走行税の導入については一定の研究成果がある。しかし、消費者余剰や供給者の行動などの分析については考慮されていない。最終的には、この3段階(購入・保有・利用)の分析を組み合わせ、走行距離税導入の与える影響を分析することが必要であるが、この方法に関しても研究途中である。 最後に自動車交通の外部費用に関しては現時点で分析に取り込められていない。 以上により現在の進捗を「やや遅れている」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の目的は走行距離課税を考慮した望ましい自動車関係諸税の導出である。これを念頭に置きつつ、各段階の需要モデルの推定に注力している。また引き続き既存研究のサーベイを行い、分析手法や外部費用に関するブラッシュアップを図る。具体的には以下の通りである。 第一に走行時の分析であるガソリン需要関数を完成に近づけ、政策評価の余剰分析を行うことである。本年度は二酸化炭素の排出量を試算したが、それがどの程度の金銭評価になるのかを求めていない。同様に自動車交通が起因する外部費用がどの程度になるのかを得ることが必要である。自動車交通の外部費用には混雑、事故、大気汚染、気候変動、騒音などがある。各項目の原単位の導出方法を理解したうえで、本研究で導入するべき値を検証する。また、走行燃費、特に燃料価格が走行燃費に与える影響についての分析についても引き続き研究を行う。 第二に自動車購入の需要分析の改善である。現時点では日本自動車販売協会連合会の販売データを用いて需要分析を行っているが、後述する自動車保有との連携を検討しなければならない。 第三に自動車保有の分析である。これに関しては、都道府県別の保有車両の特徴(燃費など)が得られるデータを入手し、自動車購入・自動車走行モデルと結び付けることが望ましい。 これらの分析結果を接続することで、より現実に即した自動車需要並びに税体系の変更が与える政策シミュレーションが可能になり、自動車関係諸税の現状より望ましい水準・体系を得ることが期待される。
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Causes of Carryover |
コロナ禍の進展により予定していた海外学会の参加が全て取りやめとなり、旅費関係の支出がなくなった。また、自動車保有に関するデータセットを購入する予定であったが、研究の進展により他の支出が必要になる可能性があったため、今年度の購入を見送ったことがある。
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