2020 Fiscal Year Research-status Report
家庭内意思決定が、労働移動、産業構造変化、および地域間分業に与える影響の解明
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17K03711
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
近藤 広紀 上智大学, 経済学部, 教授 (30324221)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 都市経済学 / 家族の経済学 / 空間経済学 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度および30年度までに,まず,親子間で非排除的・非競合的に便益が及ぶものの,その便益は親子間の地理的距離が離れるほど薄くなるような,家庭内公共財を取り入れたモデルを構築し,子世代の都市への移動と,それを促すことになる親から子への教育投資の誘因について分析し,さらに,その結果をもとに,地域間人口移動の動学分析を行った.そして,生産サイドに,規模の経済や,多様性の経済などの,新しい経済地理モデルで扱われているような定式化を試み,より厳密な地域間分業パターンや,都市集積パターンを分析した. 家庭内公共財の存在は,都市規模や人口移動の範囲を制約する.そして,一極集中型均衡---高度な産業と高学歴人口が集中する都市の規模と,そこへ人口移動を認める地方の数は多いものの,遠く離れた地域は取り残される均衡と,多極型均衡---各都市の規模は小さく,周辺の地方数は少なく,賃金もそれほど高くはないものの,全体ではより多くの人口が教育投資を受けている均衡があることがわかった. 令和元年度および2年度は,この枠組みをもとに,社会保障政策が,地域間分業パターンにどのような影響を与えるのかを分析した.社会保障政策は,教育投資や,家庭内公共財供給などの,家庭内意思決定に影響を与え,これが,労働力の移動パターンを変化させ,さらにこれによって,地域間分業パターンや,都市集積パターン,および都市の階層構造も大きく変わってくることが明らかとなりつつある. しかし,これをうけて,より具体的な社会保障政策を提言したり,包括的な論文の形でまとめることは,まだ途上である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
研究実績の概要で述べたように,分析の理論的枠組みはほぼ完成したものの,これを用いて社会保障政策の効果を分析するのは,もとの枠組みが複雑なこともあり,想定以上に時間を要している.また,令和2年度は,おおくの時間を教育およびそれに関わる管理業務にとられ,この研究に十分にリソースを割くことが困難であった.具体的な結果は得られつつあるものの,包括的な論文の形でまとめ,具体的な政策を提言していくまでにはまだ時間を要する.
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに構築した理論的枠組みを用いて,社会保障政策が,家庭内公共財供給や教育投資などの,家庭内意思決定に影響を与えることを通じて,労働力の移動や産業集積を促し,産業構造を変動させたり,さらには,経済が,一極集中型均衡に向かうか,多極型均衡に向かうか,多極の場合はどの程度の多極となるのか,についての分析を深めたい. 社会保障政策として,年金・介護・医療や,出産や育児にまつわる政策を考える.そもそも,こうした政策の趣旨は,家庭内公共財が過小になることを防止すること,および,家庭内公共財のインプットを,家庭の外側からも調達(高齢者や子供のケアサービスなど)できるようにすることにより,経済厚生を改善することにある.しかし,労働力が頻繁に移動しうる状況のもとでは,こうした社会保障政策によって,教育投資や労働力移動が促され,結果として地域間分業パターンや,都市階層形成に影響が及ぶと考えられる. 実際,社会保障政策が充実し,家庭内公共財について,家庭の外から必要なインプットを得ることができるようになるなら,家族が近接して居住する必要性は低下する.これによって,労働移動や,さらには産業構造の変動・集積が実現しやすくなるだろう. しかしながら,家族が提供するインプットと,外からのそれがどの程度代替可能かについて考慮しなければならない.また,家庭内公共財のアウトプットについては,離れて居住すると,やはり小さくなる.もし外で調達可能なインプットが,家族が提供するそれを完全には代替できないなら,やはり親と子が近接して立地する必要性は残るかもしれない. 経済成長と,家族の構成員の厚生のバランスのとれるような,教育投資と労働力の移動の程度・集積の度合いと,産業構造の変化の速度は,どのようなものであるか,社会保障政策の設定次第で,それは実現可能なのかを,より深く分析し,論文の形にまとめていきたい.
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Causes of Carryover |
当初,分析結果をできるだけ包括的な論文の形でまとめ,具体的な政策を提言していくために,国内外の研究者と情報交換を行ったり,セミナーに参加したり,論文を投稿するなどの計画であった. しかし,令和2年度は,おおくの時間を教育およびそれに関わる管理業務にとられ,この研究に十分にリソースを割くことが困難であり,研究結果をまだ具体的なアウトプットとしてまとめることはできなかった.また,国内外の出張により,関連する研究者と議論したり情報交換を行うことも大きく制約されており,これらは次年度に行うこととなった.
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