2017 Fiscal Year Research-status Report
Stockpiling Activities after a Disaster: A Case of Kumamoto Earthquakes
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17K03743
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Research Institution | Kumamoto Gakuen University |
Principal Investigator |
小葉 武史 熊本学園大学, 経済学部, 准教授 (00346280)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 災害復興 / 家計支出 / POSデータ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、災害後の家計の支出行動を明らかにすることにあるが、この目的に対し、理論面と実証面の両面から研究を進めている。 理論面では、災害後の耐久消費財に対する家計の支出行動を表す理論モデルを構築した。ここで構築した理論モデルの特徴は、近隣の店舗が被災し営業していないため、財を調達することができない可能性に直面した家計の行動を、明示的にモデル化した点にある。価格の硬直性をモデル化したCalvoモデルのアイデアを用いることにより、市場に確率的にしかアクセスできない家計の行動をモデル化することができた。また、理論モデルの比較静学分析の結果を、平成27年熊本地震前後の日経POSデータを用いてチェックすることで、モデルの現実整合性を評価した。データを用いた回帰分析の結果はモデルの予測と整合的であり、理論モデルの現実整合性が示された。 これらの研究成果を論文にまとめて公刊した。また、日本応用経済学会春季大会(久留米大学)をはじめ、各地の大学で開催される研究会で報告し、出席された研究者から多くの有用なコメントをいただいた。 実証面では、上述したように、手持ちの日経POSデータを用いて理論モデルの現実整合性を検証した。また、Webから入手可能な家計調査のデータを用いて、震災前後に特徴的な支出の動きを見せた財を特定する作業を行った。家計調査のデータは集計データであり、マイクロデータである日経POSデータと比較して解像度は劣るものの、震災時に制約された消費行動に対する反動、建築需要に追従する家具等耐久消費財の変動、復興途上の供給能力不足を表すとみられる動きなど、各財に特徴的な動きがみられることがわかった。高額なマイクロデータを入手する前段階の準備として、いかなる財に注目すればよいかという重要な情報を得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、災害後の家計の支出行動を明らかにすることにあるが、この目的に対し、理論面と実証面の両面から研究を進めている。 理論面では、当初の研究計画のとおり、平成29年度は、災害後の耐久消費財に対する家計の支出行動を表す理論モデルを作成した。研究の理論面からの進捗状況は、当初の研究計画通り順調に進展している。 実証面では、当初の研究計画では平成29年度には日経POSデータを入手し、簡単な分析をはじめる予定であったが、入手すべきデータの範囲や解像度の検討に時間を要し、未だPOSデータの入手には至っていない。しかし一方で、手持ちの範囲でのPOSデータによって、上述の理論モデルの妥当性を検証し、Webから入手可能な家計調査のデータを用いて、震災後に特徴的な支出の動きを見せた財を特定するなど、高額なマイクロデータを入手する前段階の準備をできる限り慎重に進めた。実証面からの進捗状況は、日経POSデータの入手が未だなされていない点では、当初計画よりも遅れているものの、これは高額なマイクロデータを入手する前段階の準備を慎重に進めたためであって必須の作業であった。また、手持ちのあるいはWebから入手できる無償のデータを用いて、理論モデルの妥当性検証と、震災後に特徴的な支出の動きを見せる財を特定したことは、当初の研究計画以上の進展である。 以上を総合した結果、本研究の現在までの進捗は、おおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度以降は、初年度である平成29年度の研究がおおむね順調に進展したことから、当初の研究計画に従って進めていく。 具体的には、災害後の家計の支出行動を明らかにするための基本的な理論モデルを初年度に作成したので、平成28年熊本地震前後の日経POSデータを用いて理論モデルの現実整合性をチェックする作業を行う。いかなるデータを用いるのが適当かについて、初年度に手持ちの解像度が粗いPOSデータやWebから入手できる家計調査のデータを用いて慎重に検討したので、日経POSデータの入手に直ちに取りかかることができる。 計量分析の結果は理論モデルへと反映され、災害後の支出行動に重要な影響を与える要素を理論モデルに取り込む拡張を行う。また、理論分析の結果は計量モデルへと反映され、説明変数セットを含む計量モデルの特定に活用される。 研究で得られた全ての成果は速やかに国内外の学会・研究会において報告され公開される。国内外の査読誌への論文投稿も進め、より広く成果を公表する。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた主たる理由は、研究費の大半を占める日経POSデータの購入が、次年度にずれ込んだためである。高額のデータベースであるため、データの取得範囲や解像度について十分な検討が必要であり、当初の研究計画よりもデータの購入が遅れている。しかし、初年度に手持ちのデータやWebから入手可能なデータを用いた検討を行ったので、次年度は当初の研究計画通り、日経POSデータを購入して、計画通り研究を進める。 また、平成29年度は旅費の支出がなかったが、これは、国内での当該研究に関わる研究成果報告を行う際、相手先が旅費を負担したためである。神戸大学、広島大学、九州大学、愛知学院大学の研究会で報告を行った。
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