2020 Fiscal Year Research-status Report
Stockpiling Activities after a Disaster: A Case of Kumamoto Earthquakes
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17K03743
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Research Institution | Kumamoto Gakuen University |
Principal Investigator |
小葉 武史 熊本学園大学, 経済学部, 教授 (00346280)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 消費 / 災害復興 / 耐久財 / 時間集約財 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、災害後の家計の支出行動を明らかにすることにあるが、この目的に対して、理論面と実証面の両面から研究を進めている。 理論面について、災害後の家計の支出行動は財の性質により異なる。災害後の家計の支出行動が、財の「耐久性」と「入手可能性」によってどのように異なるのかについて、一昨年前までにモデル化を行った。令和2年度は、緊急事態宣言の下での家計行動の観察からアイデアを得て、財の「時間集約性」(購入した原材料を消費可能な消費財に作り替えるために必要となる時間)が家計の支出行動に与える影響のモデル化に取り組んだ。本研究は主として2016年熊本地震後のデータを利用する研究であるが、自宅で過ごす時間が多くなったために時間集約財の消費が増大するという現象は熊本地震後にも観察されている。本研究ではすでにBeckerの時間配分モデルに基づき、財の時間集約性を考慮した消費モデルを作成しており、さらに既存研究のサーベイをすすめて、モデルの精緻化を行った。 実証面について、令和2年度は緊急事態宣言下の消費について、主として家計調査の所得階層別消費額をもちいた分析を行った。本研究ではこれまで主に支出額の時系列推移を対象に分析を行ってきたが、財の時間集約性が消費に与える影響は、家事労働時間の機会費用である市場労働から得られる所得を通じたものであるから、消費の所得弾力性ないし消費関数の傾きを評価する必要がある。このため様々な財について所得階層別のデータを用いて擬似的な消費関数を計測した。その結果、生鮮魚介と生鮮果物について、緊急事態宣言の時期に所得弾力性が増加したことが観察された。これらの財は既存研究でも調理が面倒な時間集約財とみなされており、得られた結果は理論モデルの予想に整合的であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、災害後の家計の支出行動を明らかにすることにあるが、この目的に対し、理論面と実証面の両面から研究を進めている。 理論面では、熊本地震後に観察されたパン・ケーキ材料の消費増加、新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言下で観察された生鮮魚介・生鮮果物の所得弾力性の増加を説明するための時間集約財モデルの構築及び精緻化を行った。研究計画書に記載した消費財蓄積モデルの多財モデルへの拡張は達成できていないものの、財の耐久性だけでなく時間集約性に注目した新たなモデルを構築したことは当初の研究計画を超える進展である。なお、時間集約財モデルについては多財モデルを用いている。 実証面では、時間集約財に対する支出データの収集と整理を行った。緊急事態宣言時期の家計調査の集計データを用いた準備的な検証において、モデルと整合的な実証結果を得た。さらに熊本地震後の日経POSデータを入手して詳細な検討を行う予定であり、データの入手と整理を開始している。時間集約財についての検討は、研究計画にある理論モデルと実証モデルの相互フィードバックに相当し、本研究は当初の計画通り順調に進展したと言える。 本年度は当初の研究計画を新型コロナウイルス感染拡大の影響によって一年延長したうえでの最終年度にあたるが、新型コロナウイルスの影響は令和2年度にあっても衰えることはなく、各種学会への参加が制約され、感染拡大防止のための校務の増大もあり、研究成果の発表は困難であった。このため再度研究期間の延長を申請してお認めをいただいた。 以上を総合した結果、本研究の進捗状況については、新型コロナウイルス感染拡大により成果の公表が遅れているものの、研究成果は当初の計画通りに得られており、全体として本研究はおおむね順調に推移していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究はおおむね順調に進展しているが、新型コロナウイルス感染拡大により成果の公表が遅れており、二度の延長申請をお願いすることとなった。令和3年度は、各種学会がオンラインでの開催を検討していることを踏まえ、機会を捉えて、研究成果を積極的に公表することに努める。 前年度は、時間集約財についての消費モデルの構築と精緻化を行い、家計調査の集計データを用いた準備的な検討を行ったが、成果の公表にあたっては、より精緻なデータ分析の追加が必要であると考える。すでに関連する日経POSデータを入手し、データの整理をすすめており、POSデータを用いて、理論モデルの現実整合性を検証するための実証分析を行う予定である。熊本地震に加えて、直近の新型コロナウイルス感染拡大下のデータについても分析を行う予定であり、複数の災害について観察された家計の支出行動を比較検討することによって、新たな知見が得られることが期待される。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの感染拡大による、各種学会の中止及び延期、また感染拡大防止対策による校務の増大により、研究成果の公表が遅れており、これまでに二度の延長申請をお願いすることになった。 当初の研究計画では海外で開催される学会に参加するための旅費等を計上していたが、新型コロナウイルス感染拡大による移動の制約のために、予定通りの予算執行ができなかった。そのため、将来的に学会参加が可能となった場合に備えて旅費相当分を繰り越している。新型コロナウイルス感染拡大の影響が次年度も続く場合は、オンラインで開催される学会等での成果報告を行う。
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