2018 Fiscal Year Research-status Report
外国人労働者受け入れが公教育システムの持続可能性に与える影響について
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17K03757
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
田中 隆一 東京大学, 社会科学研究所, 教授 (00397704)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 政治経済モデル / 公教育 / 移民 |
Outline of Annual Research Achievements |
本プロジェクトの2年目となる平成30年度には、日本における移民流入効果の分析に適した理論モデルの構築、およびカリブレーションに必要とされるデータをマイクロデータより構築する作業、およびいくつかのシナリオのもとでの移民流入が公教育支出に与える影響の定量的な評価を進めた。 まず、平成29年度に改定作業を進めていた論文が出版された。2000年代のスペインへの移民の大量流入を定量的に分析しFarre, Ortega, and Tanaka (2018)をLabour Economicsの4月号から出版することができた。 理論モデルの構築においては、前述の論文Tanaka, Farre, and Ortega (2018)のモデルをベースとした所得分布を外生的に変化させることで公教育支出の選択が変わるモデルを用いて、日本における少子高齢化や、それを補間するために必要な移民数に関するシナリオを複数考慮し、それぞれのシナリオの元での公教育支出の計算を行うことができた。それによると、移民と日本人の児童生徒に関する想定として、特に教育費用と家計所得、さらに子供数に関する仮定は定量的にも大きな影響を与えることがわかった。 データの作成においては、移民の流入によって教育成果がどのように変化するのか、また教育に対する需要がどう変化するのかに関しての定量的な知見を得るために新たなデータ利用申請を行い、シミュレーションに必要とされるデータの構築を行なった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
移民流入のシナリオに応じて想定される所得分布の変化を外生的に与えた上で、理論モデルの挙動は安定的であることは確認されており、現時点で得られている結果も直感と整合的なものになっている。そのため、所得分布の内生化を行うことによって、移民受け入れが公教育支出水準に対して与えるこれらの影響が異なるとしても、二次的な影響が追加されるにとどまることが予想され、現時点で得られている結果とは大きく異ならないことが予想される。 理論モデルの細部の検討がまだ必要とされる部分が残ってはいるものの、移民受け入れ政策が公教育支出に対して与える効果の定量的な検証においては、移民受け入れ政策および社会変化のシナリオの検討が重要であり、最終年度における複数のシナリオのもとでのシミュレーションの実装は十分に可能である。 データ整備に関しては、平成30年度から政府統計の二次利用申請を新たに行なったが、その大半はすでに利用申請が承認されて、いくつかの政府統計に関してはすでに整備作業に着手することができ、すでに教育に関する分析を始めることができている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成31年度は、理論モデルの細部の再検討を行いつつ、現実的なシナリオのもとでの政策分析シミュレーションを通じて、移民受け入れが公教育支出水準に与える効果を定量的に把握し、その結果を論文としてまとめる作業を行う。研究成果を学術論文としてまとめるために、国内外のセミナーや学会等での報告も計画する。 国際比較のためには、今までと同様にCity University of New YorkのFrancesc Ortega先生、Julen Esteban-Pretel先生、Nuria Rodriguez-Plana先生、University of BarcelonaのLidia Farre先生との意見交換を続ける。 さらに、昨年度から一橋大学の増田一八講師に研究協力者として参画してもらっているが、引き続き公教育制度の変更および義務教育制度の変更の影響に関する実証分析を行うことによって、移民に対する教育の義務化がもたらす影響に関しても引き続き分析を進めてゆく予定である。
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Causes of Carryover |
平成30年度中に国際比較分析のためのニューヨーク市立大学訪問を予定していたが、先方の都合によりキャンセルとなり、令和元年中に研究打ち合わせのための訪米を再度行うこととなったため。
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